オリンパスは8日、過去のM&A(買収・合併)をめぐる巨額支出は、バブル期の財テクに失敗した損失計上を先送りしてきた有価証券の含み損を隠すために利用したものだったことを明らかにした。
思えば、バブルが崩壊した1990年代には、多額の含み損を抱えた企業や金融機関による損失隠しが相次いで発覚、山一證券は破産に追い込まれた。しかし、バブル期の財テク失敗の処理は、2000年代前半であらかた終えたと思われていたため、オリンパスが20年以上にわたりバブルのツケを背負い込んでいたとは驚きだ。
なぜ、20年以上も隠し通せることができたのか――。
オリンパスが20年以上伏せてきた「パンドラの箱」は、今夏に会員制月刊誌『FACTA』が巨額買収の疑惑を報じたことがきっかけで、疑問を抱いた英国人のマイケル・ウッドフォード前社長がこじ開けた。日本人が社長に就いていたら、おそらく、損失先送りが暴かれることはなかっただろう。
オリンパスはコーポレートガバナンス(企業統治)のチェック体制を築いていた。社外取締役や監査役、監査法人は決算をチェックするのが本来の役割だが、まったく機能しなかった。トップがやっていることに異を唱えることはしないのである。
見て見ぬふりをするのは、メディアも同様だ。ウッドフォード前社長が告発してからも、国内メディアの動きは鈍かった。オリンパスの疑惑の買収に関する報道で、常に先行していたのは海外メディアである。国内のメディアは、地検特捜部や証券取引等監視委員会など当局が調査に乗り出さない限り、動かないのである。オリンパスが損失先送りを認めたことで、これからは洪水のように記事が溢れることになるだろう。
オリンパスの損失事件は、2000年代に証券市場で起きたことと軌を同じくしている。
2000年代に証券市場の指南役を務めたのが"外資渡り鳥"の証券マンたちだった。1990年代後半の金融の規制緩和によって、新興市場の上場基準が緩くなり、ベンチャー企業に門戸が開放された。それ以降、新興企業のエンジェル(カネを出してくれる善意の投資家)を装って、反社会勢力が証券市場になだれ込んできた。
その水先案内人は「共生者」と呼ばれた。彼らは外資系証券会社を渡り歩く、金融のプロたちだ。"外資渡り鳥"の証券マンが、共生者の一大勢力となった。
彼らは、身につけた金融知識をフルに活用。資金難に陥った企業に、第三者割当増資や新株予約権付社債(CB)の発行を軸にした株式市場からの資金調達を提案。経営陣がそれに飛びつくと、架空の事業計画などを発表させ、株価を吊り上げる。株価が上昇すると素早く売り抜けるという錬金術を駆使した。
増資の引受先は、例外なく、英領ケイマン諸島などタックスヘイブン(租税回避地)に登記している投資事業組合である。
オリンパスに損失隠しを指南したのは野村證券出身の証券マンたちだった。国内企業の買収を指南したのは、野村證券の事業法人部でオリンパスを担当していた横尾宣政氏。英医療機器会社の買収を手ほどきしたのは、野村證券出身で、外資系証券会社を渡り歩くなかでオリンパスを担当した中川昭夫氏と佐川肇氏の2人。英領ケイマン諸島のファンドを活用している。
損失隠しのスキームは、"外資渡り鳥"にはお手の物だ。オリンパスの菊川剛・前会長(当時・社長)は、損失を隠したうえに、企業買収に使った資金のうち1,000億円程度を損失の穴埋めに充てて損失処理を終えたと思ったかもしれないが、嘘がいつまでも続くわけがなかった。経営陣の刑事責任、オリンパスの上場廃止が現実のものになってきた。
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