知人から事務所移転の連絡を受けた。これまで個人事業主として賃貸マンションの一室を拠点にしていたが、法人化を機にきちんとした事務所を借りたのだそうだ。おめでたいことこの上ない。ただ、そこで出てきたのが敷金に関する不満であった。マンションなどを借りる際に家主に差し入れる「敷金」。部屋もきれいに使っていたし、未払いの家賃もない。でも、退去時には半分以下しか戻ってこないという。そのような場合、皆さんはどう感じるだろうか。
未払い賃料などがなくても当然に敷金から一定の金額を差し引く特約を「敷引特約」という。家主側に有利な商慣行と言えるが、実は、福岡県は全国的にも敷引特約が浸透している地域として国の調査報告書のなかでも名指しされている。それだけに、今回のケース同様、返還された敷金の額に首をかしげる人も少なくないのではないだろうか。
この点、敷引特約が消費者契約法10条によって違法・無効なのではとの議論もなされていたが、すでに最高裁判例によって有効性が確認されている。ただし、あくまで契約条件のひとつとして敷引特約が定められ、賃借人がこれを明確に認識した上で契約した場合でなければならない。加えて、「敷引金の額が賃料の額などと比較して高過ぎるなどの事情がない限り」という留保が付いているため、敷引特約が常に有効となるわけではない点に留意が必要だ。
今年7月に出された最高裁判例の事案では、月額賃料17万5,000円の物件において、敷金100万円、敷引金60万円(月額賃料対比で3.5カ月分)、周辺物件との相場相当という事情の下で当該敷引特約は有効と判断された。もちろん、「敷引金」であるため、未払い賃料や特別の汚損があれば、残額から別途差し引かれることになる。
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