平成23年9月7日(水)より連載を開始した本シリーズは、本稿をもって第12回目を迎えると同時に、最終回となる。最終回にあえて「マネージャーとプレーヤー」というテーマを選択した。これは、私が日々のコンサルティング業務の中で、完全にプレーヤー業務に徹した、または傾注したマネージャー職層が多く、社内マネジメントが杜撰であると感じる局面が、散見されることに起因する。
従業員数が数名から数十名である中小・零細企業の場合、課長や部長といったポストはプレーヤーの統括職である場合が多く、部課内のマネジメントまでを求められるケースは少ないことが一般的である。代表取締役が社内マネジメントを担う立場にある場合において、マネージャーは「スペシャリスト」または「ゼネラリスト」のいずれかである必要性は必ずしもなく、しかし優秀な「プレーヤー」であると同時に、また管理能力に長けた「マネージャー」でいなければならない。
この「マネージャー」と「プレーヤー」のアンバランス感が、昨今の倒産事例を考察するに、経営者の「質」の問題として、顕著に表面化している。トップ営業と称して、自らが売上高の向上に寄与することは、代表取締役として当然の責務である。しかし同時に、「マネージャー」職として求められる能力は、「管理能力」なのである。
論を「銀行取引」に移すと、従前までの記事において訴求した通り、多くの経営者が、「真のリレーションシップバンキングの実現」に向けて、決算期における翌期以降の事業計画や数値計画の立案と決算書分析レポートの作成、また月次での試算表の銀行宛の開示や財務レポートの作成などの重要性を、理解していると考える。
しかし一方で、現実に実践する経営者は、極めて少数と考える。「実践しないより、実践した方が良い」ことは誰もが理解していても、繁忙な日常業務を目の前に、これらの「管理業務」は、後手に回ることが一般的なのである。
これらの「管理業務」を、経営者自らが実践できるか、できないかにおいて、当該企業の、文章では容易に定義付けできない、利害関係者からの「価値」が、形成されていくものと考える。銀行取引に限定されず、自社内の人事・労務管理や組織体制そのものに興味を示さず、プレーヤー業務に徹している経営者は、外的または内的要因により売上高が減少トレンドを示したさい、自社の「組織」という脆弱さを、身をもって実感することとなるだろう。
適切なレベルでの現場への関与と、社内のほぼすべてを掌握するだけの管理能力が、経営者には求められる。自らで社内のほぼ全てを掌握できない規模に成長したさいには、稟議制度などによる明確な決裁権限規定を制定し、中間管理職層への決裁権限の移譲を、一定のルールに則って行なうべきである。これが、企業の健全な成長サイクルである。
まさに「銀行取引」は、経営者が行なうべき「管理業務」の最たるものであり、特に本シリーズにて一貫して訴求し続けてきた「真のリレーションシップバンキングの実現」に向けては、目先の売上高や利益の獲得には直結しないものである。一方で、銀行取引に「魔法の杖」は存在せず、必要なのは「転ばぬ先の杖」であることも併せて、訴求を続けてきた。
「真のリレーションシップバンキングの実現」とは、銀行サイドの「政策達成」に向けた努力よりも、経営者サイドの「銀行取引戦略」の構築に向けた努力により達成されることのほうが、現実的には、より容易なのである。運転資金(赤字補填・増加運転資金など)や設備資金などにおいて、銀行取引が切っても切り離せない関係にある中小零細企業の経営職層に対し、元銀行員が語る金融機関論の重要性が理解され、実践されることを、切に願っている。
なお、全12回に及ぶ連載は、本稿をもって終了となるが、従前の記事や本記事の内容において、意見・感想・質疑などあれば、下記の問い合わせフォームより頂戴できれば、幸甚である。全12回の連載を熟読頂いた読者に心より御礼申し上げるとともに、本シリーズ連載において尽力頂いた関係各位に対し、ここに厚く謝意を申し上げ、本シリーズの結びとする。
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