<「兵隊」を養成?>
最近、『日本人の9割に英語はいらない』(成毛眞著)という書籍が世間を騒がしている。実に明解なのだが、"英語公用語化"が、日本の既定路線だと思わせている人たち、マスコミからすると違和感があるのかも知れない。
少し前に、楽天やユニクロが、社内の公用語を「英語」にするような動きを見せ、ごく最近にも、サイバーエージェントが同じような動きを見せている。「御社はどこの国の企業ですか・・・」と経営者に聞いてみたいものだ。「グローバル企業である!」とお答え頂けると、これからの話がすごく盛り上がる。
今回は、この動きを「人材」のキャリア形成という観点に絞って考えてみる。 一番の被害者が「人材」だと思えるからだ。この発想は、「人材」のキャリア形成の考え方からすると、とてもおかしい。"兵隊"を大量に養成する考えで、幹部社員を養成する考えでは断じてない。
大変な努力をして、「英語」をマスターすることができたとしよう。それも何千時間もかけてだ。その結果は、単に「英語使い」になるだけで、残念ながら人材の「市場価値」はほとんど変わらない。
外資系に転職するとしても、「便利屋」レベルで英語力が期待されるだけだ。まともな外資系の人事であれば、英語力優先で採用というような愚かな判断はしない。
得をするのは経営者だけだ。「兵隊」のスキルが底上げされるからだ。通常であれば、この種の無理な強制は社内の反発を招く。ところが、今回は「グローバル人材の養成」という大義名分がある。マスコミも、面白がって話題にしているので、とても都合が良い。「兵隊」はスキルが高ければ、高いほど良く、マインドコントロールもし易い。
とてもおかしな話であり、「人材」をバカにしている。これは、「キャリア形成」を阻害するとても危険な発想だ。大所高所の判断は、最初から要求していない。何千人社員がいても、常に経営戦略の「意思決定」は数人で十分行なえるからだ。
将来の幹部に必要な能力は、単なるスキル(英語はこの範疇)ではなく、総合的なコミュニケーション力(プレゼンテーション能力など)や論理的思考であるのは常識だ。「人材」の将来を考えるのであれば、今磨くのはこれらの能力だ。
先日、経済セミナーで、楽天の執行役員が「英語教材」を数冊持参しながら参加していた。クビがかかっているとの話だったが、とても奇妙に思えた。
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<プロフィール>
富士山 太郎(ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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