東芝北九州工場の閉鎖が判明した先週末以降、行政機関や取引先などの関係各所は情報収集に追われている。東芝北九州工場は敷地面積 5万6,209m2 、建屋面積 6万3,266m2に従業員約530名を擁する同社の国内最古の工場であり、発表によると来年度前半を目途に閉鎖の予定とされる。取引先は北九州市内だけで80社を数え、二次請けや三次請けまで含めると影響を受ける企業の実数は数倍に膨れ上がるものとみられる。
これを受けて北橋健治・北九州市長は、「何としても撤回を求める」との緊急声明を発表し、東芝側に撤回を要請したことを明らかにした。しかし、東芝の方針は北九州工場のみならず、豊前東芝エレクトロニクス(福岡県豊前市)や大分工場(大分市)での減産、静岡、千葉工場の閉鎖もセットになっている。全社的な事業再構築の流れのなかに位置付けられており、撤回を含めた今後の見通しは厳しい。
新日鉄と住友金属の合併にもみられるように、近年、北九州地区の経済にとって向かい風となるような話が続けざまに浮上している。雇用の根幹をなす事態だけに見過ごすことはできず、福岡県や北九州市は、北九州に工場や事業所を構える大手企業にメリットとなるような施策を矢継ぎ早に打ち出してきた。各種助成はもちろんのこと、「中心市街地活性化基本計画」や「グリーンアジア国際戦略総合特区」のような都市をあげた地域的経済戦略においても、参画企業の内訳に目を通せば大手企業への偏りがみられる。効率や波及効果を考えればやむを得ない面はあろうが、結果としてこれらの方針が地区経済を再興させてきたかといえば疑問が残る。
北九州市は未だ97.4万人(2011年11月時点)の人口を抱える大都市であり、市内総生産は3兆5,220億円(08年度、同年度の国内総生産は494兆1,987億円)にのぼる。地元住民から聞かれる「テレビを見ていても北九州の情報が少ない」との不満には、住民の消費に対する熱意が見て取れ、広告代理店業を営む男性は「県内のTV視聴率の3割は北九州都市圏が握っており、潜在的な力は大きい」とコメントする。ただ、広告を出稿する企業が少ないために採算がとれず、マスコミ各社は北九州支局を閉鎖せざるを得なかったそうだ。大手企業との取引(B to B)が主体となればマスメディアを使って消費者にPRする必要性は低い。そこに依存した北九州経済の構図が、地域情報の発信にも影響をおよぼしていたことがうかがえる。
しかし、経済規模と地域住民の声は、町としてのポテンシャルがまだまだ高いことを示している。そうであれば、内需の掘り起こしは十分に可能なはずだ。大手企業に振り回される現状を脱し、地場中小企業に目を向けた地域内需の拡大に舵を切るべき時期ではないだろうか。
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