自動車メーカーの「マツダ」は、歴史的な円高の影響などで厳しい経営を余儀なくされている経営の立て直しを図るため、最大1,000億円規模の増資に乗り出す方針を固めた。
マツダは、2012年3月期通期の連結当期損益の当初見通しは190億円の赤字であったが、歴史的な円高の影響を受けて、1,000億円の赤字に陥り、4期連続の当期赤字となる見通し。これと合わせて、三井住友銀行、日本政策投資銀行、それに地元広島銀行や親密な地方銀行などから、金利は高いものの返済の優先順位が低い「劣後ローン」融資を700億円規模で受ける方針で、一連の財務基盤の強化策は、総額で最大1,700億円に上る見通し。
マツダが増資に踏み切った背景には、「歴史的な円高」による輸出の採算悪化があげられ、事業環境が厳しさを増すなか、増資などで調達した資金を基に、今後、メキシコで新工場を:建設するなど、海外での生産を増やし、円高の影響を受けにくい企業体質に変えていくことが急務と判断したことだ。
日本の自動車メーカーのなかで、とりわけ、マツダは、国内の工場での生産割合が全体の約70%に上り、トヨタ自動車の40%、日産自動車やホンダの24%に比べて際立って高い。
この結果、国内で生産した車の実に80%を輸出に頼っているため、他のメーカーに比べて、円高の影響を受けやすい構造問題が、経営の課題となっていた。
マツダの山内孝社長は、今月2日の決算発表の場で、「輸出が多いという構造的な問題があり、円高のスピードに追いついていないのが実態だ」と述べ、円高への危機感を語っており、海外での生産割合を4年後に50%まで引き上げる計画で、円高に強い事業構造への転換を進めるとともに、出遅れている新興国市場での市場拡大を目指すとしている。
マツダは1980年半ばのバブル時代、企業規模に見合わない急激な多車種展開をしたが、
バブル崩壊後はブランドイメージの著しい拡散と販売台数低下という形で跳ね返ってきた。
販売網の5チャンネル化と車種ラインアップ拡大の失敗は経営の悪化を招き、フォードと住友銀行主導による経営再建を余儀なくされた経緯がある。
多チャンネル化の失敗は、好景気を背景に収益増大を狙った広告代理店の提案に、当時の
住友銀行から送り込まれていた経営幹部が乗ってしまったという話もあり、今でもブランド戦略における顕著な失策の例として言及されることが多い。
今回の資本増強策により、海外展開がスムーズに行けばよいが、フォードなき後、三井住友銀行主導による経営再建が果たして軌道に乗ることができるのかどうか。多チャンネル化の失敗や徹底的な合理化による「悪夢が再来をするのでは」との声が当時の関係者から聞こえてくる。
※記事へのご意見はこちら