さすが野村證券、人材は多士済々というべきか。企業年金約2,000億円を消失させた投資顧問会社、AIJ投資顧問(東京都中央区)の浅川和彦社長(59)は野村證券出身である。オリンパスの損失化隠し事件で指南役を務めた野村OBの中川昭夫容疑者(61)とは、外資系証券会社で上司と部下の間柄だった。AIJの取締役には野村の元役員が名を連ねており、いずれも「伝説的」と称される面々だ。
<日本版マードフ事件>
「日本版マードフ事件だ」。AIJ投資顧問が2月24日、金融庁から業務停止命令を受けた翌日、米ウォール・ストリート・ジャーナル日本版(25日付)は次のように報じた。
〈AIJ投資顧問について、格付け会社の格付投資情報センター(R&I)が2009年発行したニュースレターの中で米国の巨額金融事件になぞらえて、日本のマードフ事件になりかねないと警告していたことがわかった。(中略)ニュースレターは市場が落ち込んでいるにもかかわらず、AIJの運用利回りは不自然に安定していると警告した〉
ニュースレターは名指しこそしなかったものの、ほとんどの年金専門家にはAIJだとわかるような書き方だったという。
マードフ事件とは08年発覚した米株式市場ナスダックのバーナード・マードフ元会長による「米市場最大」の詐欺事件である。マードフ自ら運営する投資ファンドは、10%を上回る高利回りをうたって投資家から資金を集めたが、実際は市場で運用せず、投資家に配当を回すだけ。被害額は日本円に換算して3.3兆円にのぼった。
リーマン・ショックで大打撃を被った金融界のなかで、4.75%の高利回りを保証して企業年金を集めていたAIJが目を引くのに十分だ。年金専門家のあいだでは、マードフと同じような詐欺事件になると危惧されていたということだ。
<伝説の営業マン>
AIJ社長の浅川和彦氏(59)は横浜市立大学卒業で、75年に野村證券に入社。個人営業部門で実績を積み上げてきた凄腕で、「成績はトップクラスの伝説の営業マンだった」というのが野村OBの評。京都支店営業次席、熊本支店長と出世階段を上っていったが、突然、退社した。バブル崩壊で、個人的な株投資で失敗し借金を抱えたためといわれている。
94年に個人顧客を引き連れて外資系の米ペイン・ウェーバーに転じ、一介の営業マンとして日本株を売る個人向け営業に携わった。この時の上司がオリンパス事件で指南役として逮捕された野村證券OBの中川昭夫容疑者(61)。同じ指南役を務め、所在が不明となっている野村OBの佐川肇・アクシーズ・アメリカ元社長は同僚だった。運命のいたずらというほかはない。
中川氏はペイン社を辞めたあと、佐川氏とともにアクシーズ・ジャパン証券を設立し、オリンパスの損失隠しの指南役を務めることになる。一方、浅川氏は、96年頃に歩合外務員として一吉証券に移った。営業マンとして抜群の成績をあげ、個室と秘書を与えられるという破格の待遇を受けた。当時の女性秘書がAIJの高橋成子取締役である。
その後、独立してAIJの前身の投資顧問会社を買い、2004年ごろから企業年金を扱うようになる。AIJの実質支配下にあり、信託銀行を通じて募集した年金資産をタックス・ヘイブン(租税回避地)のケイマン諸島で運用していたアイティーエム証券(同一ビルに入居)の西村秀昭社長は、山一證券の国際部門の出身。山一が破綻しため98年に同社を設立。浅川氏が外資系証券会社にいた当時からアイティーエムの西村氏とは盟友だったという。営業一筋の浅川氏が企業年金を集め、国際業務に精通した西村氏が運用する役割だ。
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