姉歯秀次・元一級建築士による耐震偽装事件(2005年11月)によって構造設計がクローズアップされて6年余。構造計算書を偽装したとして「第2の姉歯」扱いをされ、裁判闘争まで余儀なくされた1級建築士が「完全復活」を遂げようとしている。その人物は、当社経営情報誌「I・B」でも何回か取り上げている仲盛昭二氏(61)。元サムシング株式会社代表で、現在協同組合建築構造調査機構代表理事だ。構造設計の世界が耐震偽装の"激震"に見舞われた後、仲盛氏は降りかかった火の粉を払い落とし、たたかいは残すところ2つとなった。1つは、仲盛氏が構造計算を担当したマンションの安全性をめぐる訴訟(現在福岡高裁で審理中)である。もう1つは、国が行った懲戒処分(1級建築士免許取り消し)をいったん取り消しながら再度聴聞していることだ。
仲盛氏の反撃は、快進撃を続け、いずれも今、大詰めを迎えている。
「明日から新しい仲盛が始まる」。仲盛氏は、今年の誕生日の夜、福岡市内のお好み焼き屋にいた。本人が「闘争本能に火が付いた」という目からは、吸い込まれるような感覚を覚える。不思議と邪気を感じさせない。構造設計1万8000件を手がけた。耐震偽装問題を教訓にして創設された「構造設計1級建築士」でもある。
<一審根拠崩れる>
安全性をめぐって起こされた訴訟は福岡高裁で審理中だが、控訴審で仲盛氏から衝撃的な主張を明らかにした。1審判決が根拠とした鑑定に法的な決定的誤りがあるというのだ。
訴訟で問題になっている建物は、福岡県篠栗町にあるマンション「エイルヴィラツインコートシティ門松駅前ウエストサイド」(地上9階建て42戸)で、同マンション管理組合が、仲盛氏らを相手取って建物としての基本的な安全性を損なうなどとして建て替え費用等の損害賠償を請求したものだ。
一審福岡地裁判決は、鑑定人上瀧邦宏氏の鑑定(「上瀧鑑定」)を根拠に「安全性が確認できない」として、補修費用と引越し費用の支払いを仲盛氏らに命じ、訴訟費用は原告の7割負担とした。安全性を自ら検証した仲盛氏にとっては、当然認められない判決内容だった。
<鑑定、第1ハードル越えず>
仲盛氏が控訴審で明らかにした「上瀧鑑定」の法的誤りとは、このマンション敷地には「上瀧鑑定」が用いた限界耐力計算という構造計算法をそもそも用いることができないということだ。
限界耐力計算は「がけ地その他これらに類する傾斜した地盤またはその近傍にない場合」などに用いることができると建設省告示で定められているので、敷地近傍に不連続面(川)が存在する本件マンションでは限界耐力計算を行うのは法令違反になり、限界耐力計算を行なうべきではないと、仲盛氏は主張する。
限界耐力計算を行なう際の法的な「第1ハードル」で法を犯していることになる。
仲盛氏によれば、構造計算の専門家である専門委員が出席した弁論準備(口頭弁論とは別に、争点や証拠の整理をするための手続き)で、「裁判官も安全性の検証に限界耐力計算は使わないと明言し、双方も合意した」とのことである。
そうなると、上瀧鑑定が安全性の検証のために行った限界耐力計算がこのマンション敷地には用いることはできない。1審判決が安全性が確認できないとした根拠が崩れたことになる。また、損害賠償金額(補修費用)についても、1審判決は、上瀧鑑定の限界耐力計算に従って建築基準法を満たす補強を検討した補修計画を基礎としたが、これも見直される可能性が出てきた。
仲盛氏の完全復活へ、最終幕が開けた。
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