生活保護問題を考えるうえで、切っても切り離せないのが就職問題だ。昨年10月、雇用保険を受けられない失業者に月10万円を給付し職業訓練を行う「求職者支援制度」が 法制化されたことを受け、同制度を生活保護受給の事実上の要件とすることを厚生労働省が検討したことがある。
これに対し、日本共産党の機関紙である「しんぶん赤旗」は、紙面で「働ける年齢層の生活保護が増えているのは、リストラ、非正規化などの雇用破壊と中小業者の経営悪化などで働きたくても職がないから」として「生活保護受給者が、「漫然と保護を受給」しているかのようにいう厚労省の主張は、現実を見ないもの」だと厚労省の方針を厳しく批判して、ネット上で議論を呼んだ。
たしかに、同紙がいうように、非正規雇用が増え、働きたくても働く場がない。あるいは働いても、働いても生活が成り立たないワーキングプア状況にある人々が増え、中小自営業者の経営悪化によって解雇され、あるいは廃業し、再就職が困難な状況におかれていることは疑いようのない事実である。
1991年のバブル崩壊以降、わが国では長期にわたる経済不況が続き、終身雇用と年功序列型賃金の日本型経営システムを転換していった。折しも「官から民へ」「小さな政府」「構造改革」を掲げる小泉政権のもとで、規制緩和が進んだ時期と重なる。小泉政権下で進められた一連の改革は、アメリカ型のグローバリゼーションに追従しようという動きだった。
1999年には労働者派遣法が改正され、それまで一部の職種に限定されていた派遣社員が、ほぼすべての職種での受け入れが可能となった。2002年の再改正により製造現場での派遣労働者が認められるようになり、法的な規制は撤廃された。これによって1998年には90万程度だった派遣労働者は、わずか5年で200万人を突破した。労働の細分化は、日雇いの派遣労働者を生み出した。近年、社会的な問題提起もあり、グッドウイルやフルキャストなど大手の派遣会社から、中小の派遣会社まで、若者を中心に登録している数は、減少傾向にはあるという。
生活保護と就業の関係を見ていくと、構造改革と日本型経営路線の転換により、非正規雇用が若い世代を中心に増え、なかなか正社員に就けなくなったことと無関係ではない。さらに、学校にも通わず、就職も求職もしていない、いわゆるニート(無業者)の増加も見逃せない。
2007年にNHKスペシャルで「ワーキングプア」特集を3回にわたり放送し、大反響を呼んだことで、「格差社会」「新たな貧困」が社会問題として認識されるようになった。また、ニートやひきこもりの問題は、就職氷河期から問題視されてはいたが、不況の長期化にともない高年齢化が指摘されている。
ニートについて2004年の労働白書の中で、「主婦と学生を除く非労働力人口のうち15~34歳の若年層」と定義されているが、最近、「中年ニート」という言葉も登場した。人生の目的を持たず、働くことも、学びもしない中年世代をそう呼ぶ。内閣府が発表した2011年版の「子ども・若者白書」にある若年無業者数に、同白書で参考資料として35~39歳の「高齢ニート」の数を算出しているデータを加えた表を見てみると、無就職、無就学の35~44歳は年々増加傾向にあることがわかる。つまり納税はもちろん国民健康保険料、国民年金を納めることもできない人が増えつつあるのだ。
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