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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(20)
経済小説
2012年4月18日 07:00

<第三章 植木頭取時代>

長期政権の弊害(8)

 赫子は小規模の改装を行う傍ら、レッドシューズ時代から知り合いのホステス4人とボーイ1人に声を掛け雇うことにした。新規開店に伴う手続きや客への案内等を慌ただしく終えて、待望の会員制クラブ「赫子」の新規開業の準備が整った。

grs.jpg 3月5日、クラブ「赫子」は開店の日を迎えた。朝のうちは曇り空であったが、日中は日も差すようになり、3月の初旬にしてはそんなに肌寒さを感じさせない陽気となった。
 クラブ「赫子」のママとなった赫子は、昼前からボーイとホステス4名と共に開店の準備に追われていた。久間は男子行員の運転する車で駆けつけ、豪華な5本立ての胡蝶蘭と祝儀を赫子に手渡した。赫子は早速受取った胡蝶蘭を一番目立つ場所に置きながら、誰からも悟られないように、そっと久間と目を合わせた。

 久間は忙しく立ちまわっている従業員に、「ご苦労さん」と大きな声を掛けながら一通り店内を見て回った。麻雀仲間の3人の会社や、また久間が声を掛けていた取引先からも祝いの胡蝶蘭や花束が届けられていた。久間は開店の準備が整っているのを見て安心したのか、程なくして行員の運転する車に乗って引き上げていった。

 6時を過ぎると辺りは、ネオンが煌めく華やかな夜の町に変わっていった。赫子は赤のドレスに身を包み、昼間見た顔と別人のような妖艶さを漂わせ、お祝いに駆けつけた客一人一人にお礼の挨拶を交わしながら、シャンパンを注いで回った。

日がどっぷりと暮れた頃には、お祝いに駆け付けた客で店内はごった返すほどの賑わいを見せた。やがてボトルキープを終えてほろ酔い加減になった客は、次の約束があるのか、8時を過ぎる頃になると、三々五々引き上げていった。

 丁度一段落ついた頃、久間が数名の男子行員と共に店に入って来た。久間は早速、赫子やホステス達のためにビールを注文し、キープしたレミーマルタンをなみなみと湛えたグラスを高々と上げて、「開店おめでとう。今後益々のご繁栄を祝して乾杯」
と、大きな声で音頭を取った。周囲からグラスの触れる音があちこちから聞こえてきた。
 「おめでとう」、「おめでとう」
 祝福の声とともに、大きな拍手が店内に渦巻いた。久間にとっても赫子にとっても、至福の一瞬であった。暫くするとまた開店祝いの客で、ボックスやカウンターまで満席となっていた。

 開店祝いに折角駆けつけた客の一部は、ドアを開けるなり満席のため引き上げていく光景が見られるようになったため、久間は赫子に目配せして、行員達と共に意気揚々と引き上げていった。その後も断続的に開店祝いの客が駆けつけて、会員制クラブ「赫子」は閉店まで賑わいを続け、滑り出しは上々であった。開店してから一週間、赫子は目が回るほどの忙しい日々が続いたが、二週間目からは客足も徐々に落ち着きを取り戻すようになっていった。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」



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