2011年3月11日、東日本を襲った大地震は、日本人の原発に対する思いまで変えてしまった。これまで「原発は安全だ」と言われ続けてきて、原発に対して盲目的な信用を置いてきた一般市民の多くが、それは間違いだったことに気づいたはずだ。原発とどう向き合っていけばいいのか。九州大学副学長で福島原発事故の政府事故調査委員会のメンバーである吉岡斉氏に、原発に対する考え方とこれからの方向性を聞いた。
<劣った技術を実用する愚行>
――福島の事故から1年になります。先生の原発に対するお考えをうかがいます。
吉岡 従来から私は、原発については非常に冷ややかな見方をしていましたが、ここまでの事故に発展するとは予想を超えていました。あのような劣っている技術を政府が優遇してきたのは、間違いであると思います。政府が優遇しなければ、原子力発電はここまで普及しなかったでしょう。電力会社が国策協力に応じたのだと思います。あんなガラクタ技術を国策にしたというのが、そもそもの間違いのもとです。私の従来からの主張は、国策的な推進とか優遇とかいうのはなくすべきというものでした。それをやらなくなれば、企業は当然、原発から手を引くだろうと。
ただ、原発の場合は、建設費と後始末費が非常に高くてランニングコストは安いという特徴がありますから、いったん建てて安定して動いている原発を、動いているのに止めるというのは、経営者にとっては非常につらいことだと思います。その分、火力発電の焚き増しの追加費用は、結局は消費者が電気料金で払うということになりますから、回り回って国民の負担が増えることになりますし。
したがって、電力会社は、きちんと動いている既存の原発の多くについては、すぐに止めようとはしないだろうと思います。安全審査のハードルを高くしたり、原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)を廃止したりするということになれば、ちゃんと動いている原発も止めるかもしれませんが―。
――優遇策をなくせば、原発は稼働させ続けられないということですか。
吉岡 それくらい優遇されているのです。政府の補助金、交付金に加え、賠償法までついていますから。その点でいけば、私は自由主義的改革から、脱原発の動きになるだろうと考えていました。これは、法律で決めることではありません。そういうシナリオを持っていましたが、今もそれは変わっていません。
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<プロフィール>
吉岡 斉(よしおか・ひとし)
1953年富山市に生まれる。東京大学理学部卒業。現在、九州大学にて教鞭を振るいつつ「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)のメンバーとして活躍。近著「新版 原子力の社会史 その日本的展開」(朝日新聞出版)など。趣味は登山。
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