最近、ロイターから、「サムスンが日本人技術者引き抜き加速!」という報道が流れた。奇しくもこの前後、複数のメディアから筆者にも"サムスン"の件で問い合わせが入った。改めて、近刊本を数冊読んで見た。多くの本がセンセーショナルに書かれてあり、客観的視点が欠如していて参考にならない。(暴露本を含めて、売れている本の多くがこの類である)。それは、最も重要な大前提となる韓国がIMF傘下にある点、「国家資本主義」である点等を無視し、「サムスン」が単体で優れていると勘違いしているからだ。
本書の著者は経済ジャーナリスト、経営評論家であり、サムスンに勤務した経験はない。そうなると、データの検証やヒアリング等の客観的分析が命である。そのため、読者も著者と同じ出発点に立ち、偏りがない姿勢で、読むことができる。
比較ではなく、日本人が忘れてしまった点、考えなければいけない点も多く発見できた。
・1億2,000万人の市場があっても、今後は国内だけでは食べていけない。海外進出が大前提。1つの産業分野に複数企業は共倒れを意味する。⇒大企業のサラリーマン社長が"国益"を忘れて久しい。
・半導体投資等、企業の投資は今後1兆円規模になることが多い。大企業のサラリーマン社長では、躊躇して結論が出せない。
・サムスン社員は24時間働く。韓国平均とトヨタのホワイトカラーの労働時間は、1年で1,000時間違うケースもある。10年間で、1人1万時間の差は大きい。
・日本の"モノづくり"は、細部に神が宿ると言われてきた。しかし、2009年の技能五輪で金メダル獲得数第1位は韓国である。中国は2010年、「技能五輪」に参加を表明し、国家戦略で、技能者育成に力を注いでいる。
・シンガポール政府は、優秀な人材を世界中からリクルートし、国籍、永住権、高給を与えている。サムスングループも、海外にスカウトを配置し、世界中の博士をなり振り構わずアタックさせている。⇒その彼らに日本は"人材流出大国"と言われている。
日本はIMF傘下でない今、一時的、緊急宣言でもして、「国家資本主義」体制を敷く必要がある。そこにしか再生の道は残されていないのかもしれない。
一方、2、3日前に、「欧米企業顧客に対し、日本式を活かしたグローバル経営の潮流が浸透し始めており、ワクワクしております」という知人のメールを受けた。彼は、現在北京を拠点に世界中を駆け回る、外資系組織開発コンサルティング会社の日本人社長である。彼の言う"日本式"とは何か、"グローバル経営にどう生きるのか"は詳しく話を聞いたうえで、別途読者に届けたい。
<プロフィール>
三好 老師 (みよしろうし)
ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。
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