住宅の在り方は、経済的な発展と文化が多様化するなかで、そのかたちを大きく変えてきた。「住めれば良し」とされてきた箱としての住宅から、ライフスタイルを体現する居住空間への転換。また、自家発電やバリアフリー化など、機能面でのブレイクスルーがその好例だろう。現在、福岡市に住む人の約5%が暮らす市営住宅。その市営住宅も岐路に立っている。将来に向けたビジョンについて、福岡市住宅供給公社の瀧口研司理事長に話を聞いた。
瀧口理事長のインタビューを開始するにあたって、まず筆者は、現在の市営住宅の状況について質問を投げかけた。すると返ってきたのは、同氏の言葉を拝借すると「状況と言うよりも問題点と言った方がしっくりくる」ものだった。
「何と言っても築30年を超える物件が半数を占めているため、建物や建築設備の老朽化が進んでおり、更新や修繕の必要性が増しています。財源は限られていますので、緊急性を判断して実施しているのが実情です」と、瀧口理事長。古い物件を多く抱えるだけでなく、そのつくりも、時代に合わせるために改善しなければならないとなると、大規模な改修が必要になる。しかし、福岡市の財政状況が厳しいのは誰の目にも明らかで、「住宅公社の保全業務予算は40億円程度」と考えれば、やはり計画的に進める必要がある。住宅供給公社では、それらの問題を解決できる技術やノウハウを必要としている――そう直感した。
こうして、市営住宅の管理を請け負う住宅供給公社だが、福岡アイランドシティの住宅開発のコーディネーターもしている。改めて触れておくと、福岡アイランドシティは、福岡市東区に位置する人工島で、約400ha(完成時面積)の広さを誇る。島内では、住宅地や産業用地をはじめ、島の特性を活かして埠頭用地や港湾関連用地としても使用される。近年、記憶に新しいのは、こども病院や青果市場の移転であり、実際に整備・建設される予定となっている。また、土地の売却をめぐっては、髙島宗一郎市長が「売れるまで土地を遊ばせておくのはもったいないし、逆にこれまでの段階で、企業ニーズなどを汲んで、もっと積極的に進めるべきだ」として、2011年末に「原則分譲」から一部を「定期借地」に方針を切り替えた。
「市では、『アイランドシティ・未来フォーラム』というかたちで第三者委員会を立ち上げ、いろいろなアイディアを出してきましたし、借地方式の一部導入や立地交付金の拡充など事業推進の有効策も打ち出しております。徐々にではありますが、効果も出てきているように思います。しかし、なかなか抜本的な解決の糸口がつかめていないというのが現状かもしれません」と瀧口氏。そこで、アイランドシティの問題点や、その解決策を探ることにした。そこから、瀧口氏の視点が見えてくるはずだ。
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