＜オンリーワンの考え方が、シャープをダメにした＞
　「驕る平家は久しからず」という。最盛期というものはそれほど長くは続かず、頂点を極めると、そのあとは駆け足で没落していくのが普通である、という事実を述べたものだ。頂点から一気に凋落していくのは、驕りにある。シャープも例外ではなかった。

　町田氏が驕りを見せつけたのは、シャープのキャッチフレーズに「オンリーワン」という言葉を使うようになったことだ。シャープのホームページには、＜「まねされる商品をつくれ」という創業者、早川徳次の精神を受け継いだ＞「オンリーワン・ヒストリー」が誇らしげに載っている。他社のマネできないモノをつくるという意味で、「ナンバーワンよりオンリーワン」が2000年頃から流行になった。
　液晶テレビの大成功で、他社のマネをゆるさない「オンリーワン企業」になると舞い上がったである。

　これほど、創業者の早川徳次氏のモノづくりと反する考え方はない。シャープが、日本で最初に発売した製品は数々ある。鉱石ラジオ、国産第１号テレビ、電子レンジ、世界初のトランジスタ電卓などなど、他社に先駆けて世に出した。だが、すぐに圧倒的な販売力を持つ松下電器産業（現パナソニック）などの大手電機メーカーに追い抜かれた。

　その経験から導き出されたのが、「マネされてもいいから、次々とライバルがマネしたがる新商品を出していけばいい」という、モノづくりの考え方。これが早川氏の遺志である「まねされる商品をつくれ」という意味だ。液晶テレビは圧倒的に優位に立っているが、これとてすぐに他社にマネされて追いつかれるようになる。マネされてもいいから、もっと良いものをつくればいいという考えになる。

　世の中の変化は激しいから、オンリーワンにいつまでも固執するなということだ。しかし、町田氏は液晶テレビの大成功に気を良くして、「オンリーワン」という考えを口にするようになった。シャープの経営がおかしくなっていく"分水嶺"となる。

＜リスク軽視の一本足打法＞
　オンリーワンから導き出されたのは、液晶テレビへの一極集中だ。一極集中とリスク軽視はメダルの表裏をなす。今になって、液晶に依存する一本足打法が仇になったと声高に言われているが、シャープの全盛時代でも、エレクトロニクス担当のアナリストは一極集中へのリスクを警告していた。

　テレビのような家電は、頻繁に買い替えるものではない。急激な需要増の後には冷え込みがくるのは、これまでにも何度も繰り返されたことだ。ましてや、シャープ、ソニー、パナソニックの３社が一斉にテレビに「選択と集中」したのだから、なおさらだ。液晶への一本足打法は、あまりにリスクが高すぎるので、リスクを分散させた方がいいと指摘した。

　しかし、儲かっているときは"イケイケドンドン"で、こういう消極的な意見が受け入れられることはない。液晶パネルから液晶テレビまで一貫生産する戦略が当たり、業績は急拡大。08年３月期には過去最高となる売上高3兆4,177億円、当期純利益1,019億円を計上した。

　だが、08年秋のリーマン・ショックで、翌期は巨額赤字に転落した。町田氏は急ブレーキを踏むどころか、身の丈を超えた拡大路線に突き進む。
　シャープは09年10月、世界最大の液晶パネル工場である堺工場（大阪府堺市）で生産を開始した。関連会社を含めた総投資額は約１兆円。昨秋以降、５割の低稼働が続き、これが命取りになった。

　リスク軽視は資金調達にも現れた。「液晶のシャープ」は、銀行からの借入金に頼ることなく、資本市場からいくらでも調達できた。長期資金は転換社債（CB）で、短期資金はコマーシャルペーパ（CP）で調達した。良い時ばかりではないので、リスク分散のために、銀行からの調達とバランスをとったらよいと言われたが、無視された。

　だが、株価の下落、格付けの引き下げで、資本市場からの調達の道は閉ざされた。資金繰り難。業績不振が一気に、経営危機にまで突き進んだ理由だ。リスクを軽ろんじて、液晶の一本足打法に拘った帰結であった。

　2012年９月15日。シャープ創業100周年を迎える。最悪の記念式典になることだろう。

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