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「反日」のソウルで考えた~日本を理解できる韓国人は少ない
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2012年9月14日 11:10

 8月19日から1週間、所用があり、ソウルに滞在した。いろいろな「竹島」関連の新聞論評を読んだ。痛感するのは、日本という国を肌身で理解できる韓国人が、とても少なくなったということだ。とくに「天皇個人」「象徴天皇制」への理解は、皆無に近い。韓国の李明博大統領の「竹島上陸」「天皇謝罪要求」は、日韓関係を最悪の状況に陥れた。日本政府は竹島問題を国際司法裁判所へ提訴する手続きを取り、国会は大統領批判の決議を採択した。日韓関係正常化から47年。日韓関係は「配慮」から「対立」の局面が強まった。

ジャーナリスト(元毎日新聞ソウル支局長) 下川 正晴


<ほとんど理解されない日本人の天皇への想い>
 東亜日報「日本人が神のように考えている天皇に対する(韓国大統領の)暴言が日本人を怒らせた」というような言い方は、マシな方だ。しかし、現代日本人が天皇を「神」のように考えているわけではない。国民とともに悲しみ、ともに喜ぶ天皇・皇后の存在感が、とりわけ3.11以降、日本国民のなかで高まっている。韓国の場合、東京特派員の一部しか、そのことに気付いていない。東京特派員でも、「朝鮮日報」のように反日を煽り立てている記者もいる。

 日本人のなかで最も「親韓国的」「親沖縄的」と言ってよい「天皇、皇后の真実」を隣国人すら知らないのは、日本の学界や新聞の責任でもある。一連の領土紛争は、日本の「国家力再生」「国家戦略の再編成」にとって、絶好の機会を与えた。「国民統合の象徴」としての「現在の天皇」が、実際には日本国民にとって何を意味するのか。日本人と外国人に的確に説明できる理論構築の努力が不可欠である。

<みんな知らない日韓関係>
 訪韓中、韓国映像資料院では「仲代達矢特別展」が開催中だった。私が最も見たかったのは「人間の條件」(小林正樹監督、1959~1961)だ。「従軍慰安婦」の描写を確認したかったのだ。

 中高校生の頃、五味川純平の原作(1955)を読んだ。映画も見た。この小説で、私は「朝鮮ピー」(朝鮮人慰安婦)という言葉を知った。1990年代になって国際的な問題になるイシューは、この小説にすでに登場していたのである。映画では、私の好きな女優である淡島千景さん(故人)が、中国人慰安婦のリーダー格を演じていた。慰安婦と捕虜は、分量的にも、第1部、第2部の重要なテーマである。

 実は、この小説は、韓国でもベストセラーになっている。昨日の上映会場で会った韓国人の知人も「翻訳本を中学時代に読んだ」と語っていた。ところが90年代に「朝鮮人慰安婦」問題が登場したとき、韓国のマスコミは「初めて従軍慰安婦という事実に接した」ような書き方をした。ソウル特派員だった私は、強い違和感を持った。その感覚は、間違っていなかったらしい。「慰安婦」は1960年代の日韓交渉の頃には、韓国でも周知の事実だったのである。

 この時期に、日本人は見ておいた方がいい、もう1本の日本映画がある。今井正監督の「あれが港の灯だ」(1961)である。
 <1960年前後。李承晩ライン問題で、日本漁船が韓国に拿捕されていた時代を描いた作品である。日韓のはざまで苦悩する在日韓国人の漁船員(江原真二郎)が主人公>(Wikipediaより)。
 今井正は戦後、日本共産党員だった。戦時中に「愛と誓ひ」(1945)という特攻隊映画をつくった。そのフィルモグラフィーを調べていて、この作品に遭遇したのだ。
 帰国後、私の研究室を知人が訪れた。私が先週、ソウルに滞在していたことを知り、「韓国の様子を知りたい」と訪問されたのである。すでに述べたように、「韓国には日本のことを知る人が少なくなった」ことを話し、さらに構想中の「日韓関係講座」(後期「日韓コミュニケーション論」9月23日以降の毎週火曜日午後1時から90分)のプランを話した。どんな内容になるのか。ちょうど良い機会だと思い、約1時間かけて、概略を話した。

photo104_s.jpg そのなかで、この「日韓関係者」が一番驚いたのが、【写真】の「首相から手紙」である。従軍慰安婦への償い事業として行なわれた「アジア女性基金」の償い金(200万円)支給に際して同封された「日本国総理の手紙」のことである。
 「こんな書簡まであったのですか」と、その人は驚いた。僕は、日韓基本条約(1965)で「個別請求権は完全かつ最終的に決着した」こと。しかし、その後、在韓被爆者、サハリン残留韓国人、従軍慰安婦に関して「人道的措置」が日本政府によってとられたことを説明した。

 話をしながら、私は感触を得た。「みんな、よく知らないのだなぁ」と。その人は「先生の話を聞いて、頭のなかがよく整理できました」と言ってくれた。私は「日韓関係論」を専攻する学者ではない。しかし、ソウル特派員として、1980年代~90年代の事情は、つぶさに観察して来た。専門的なテーマ講義は、外部から特別講師を招くつもりだ。

<ダイレクトな交流をし、しっかりとした対話を>
 帰国後、毎日新聞の朝刊コラム「風知草」(8月27日)を読んだ。「子どものケンカだから無意味ということはない」。山田孝男編集委員の健筆が冴える。もちろん、日韓外交摩擦のことだ。山田記者が取り上げたのは、言語学者・鈴木孝夫先生(慶応義塾大学名誉教授)の言説。謙遜のつもりでモジモジしていては外国人とのコミュニケーションは成り立たない。鈴木の確信は百戦錬磨の海外体験に根差している。ここがポイント。

 8月26日の毎日新聞の朝刊「余録」。自社後援の「日中韓学生交流環境フォーラム」を自画自賛していた。「竹島や尖閣列島の影もなく、充実した1週間」だったという。これは竹島、尖閣について、学生たちは何も話をしなかったということなのだろうか。何も書いていない。
 私たちが大分で行なった「日韓学生短編映画制作交流」(8月10日~17日)では、何の遠慮も不要だ。私は連日、韓国側の引率教授と「歴史論議」をやったし、あげくの果てに「8/15日韓の虚実」をテーマにした対談を、府内城址公園で録画した。日本側代表のミサキちゃんの卒業研究テーマは、ずばり「竹島」。ソウルで会った元ゼミ生(韓国留学中)によると、「竹島の話を向けると、その話はちょっと、と嫌がる韓国の学生もいるんですよ」という。

 ダイレクトな交流、生身の交流、文化交流をして、しっかり口喧嘩もしないといけない。領土問題についても、しっかり勉強して、しっかり対話してください。韓国人は赤ちゃんの頃から、「独島は我が領土」イデオロギーを刷り込まれているから、意外と脆いところがある。「李承晩ライン」を知らずに、語る人も少なくない。「国家史観から独立した自己の史観を立ち上げる」。これは日韓国民の永々のテーマである。

 参考文献として渡部昌平「日韓つっぱり力」(中公新書ラクレ)をあげておこう。元在韓日本大使館員が書いたものだ。とりあえず、「日韓論争」の初歩的な知識を入手するには役立つはずだ。

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。07年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。



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