<和田久弁護士の裁判案件>
和田久弁護士が、鹿児島県の代理人を務めた裁判案件を調べてみた。そのうち。世間が注目した情報公開、公務災害(公務員の過労死)の訴訟を見てみよう。
<食糧費情報公開請求事件>
1990年代に全国の自治体で、「食糧費」という名前の当時聞き慣れない予算項目に注目が集まった。懇談会の茶菓子代や、予算編成の忙しいときなど職員が残業したときの弁当代かと思いきや、官官接待・官民接待として"飲み食い"に使われていたのだ。なかには一晩で1人何万円、庶民の生活とは程遠い「お役人天国」に日本中の怒りが沸騰した。その実態を明るみに出したのが、各地の「市民オンブズマン」などの情報公開請求だった。
鹿児島県では、1994年度、95年度の秘書課、東京事務所等の食糧費支出に関する請求書や懇談会出席者名について、情報公開条例に基づい公開が請求された。それに対し、県は、一部非開示として、出席者の氏名や所属団体名などを墨塗りにした。そこで、出席者名などを開示するよう、非開示処分の取り消しを求めて裁判が起こされた。1審から最高裁まで一貫して県側が敗訴し、最終的に、差し戻し控訴審で法人の代表者などは非開示情報に該当しないとして、開示を命じられている。
和田弁護士は、鹿児島県知事の代理人として、「県職員以外の出席者名・肩書きの開示はまかりならん」と、最高裁まで徹底的に争った。1審から差し戻し控訴審まで1回も勝てなかったが、代理人として県側の言い分をとことん主張し抜いた。
最高裁は2004年2月、「法人の代表者など法人の職務として出席したものは非開示情報に当たらない」と判示したうえで、出席者各人について法人の行為そのものかどうかの審理を高裁に差し戻した。差し戻し控訴審で福岡高裁は06年10月、「所長,幹事長,支店長,支社長,会長,議長,社長,委員長」などは法人などの代表者だとして、開示を命じている。
<公務外認定処分取り消し請求事件(牧之原高校教員)>
地方公務員(牧之原高校教員)の過労死について、労災(公務災害)と認めなかった事件では、1審では見事原告(過労死した高校教員の遺族)を負かしたが、控訴審では原告側逆転勝訴に終わり、一家の大黒柱を失った遺族は無事救済された。
概要を紹介すると、牧之原高校教務主任だった県教員が業務により心不全が悪化、慢性化し、不整脈発作を起こして死亡した事件で、労災(公務員災害)申請したところ、地方公務員災害補償基金鹿児島支部長(鹿児島県知事が務める)が1978年3月、公務外とした処分の取り消しを求めたもの。1審鹿児島地裁で敗訴した原告が地裁判決を不服として控訴し、福岡高裁宮崎支部が93年12月、死亡との因果関係を認め、公務外処分を取り消した。訴訟費用は、1審2審を通じて、地方公務員災害補償基金鹿児島支部長負担となった。
<公務外認定処分取り消し請求事件(内之浦町教委職員)>
地方公務員の過労死をめぐって、もう1件紹介しよう。
心筋梗塞の既往症を有する内之浦町教育委員会職員が公務で行なわれたバレーボール大会参加中に急性心筋梗塞を発症して不幸にも死亡したケースだ。地方公務員災害補償基金鹿児島県支部長が公務外とした処分の取り消しを遺族側が求めて裁判を起こしたものだ。
1審が公務外処分を取り消し原告側が勝訴したのを不服として基金側が控訴し、2審福岡高裁で原告側が逆転敗訴。代理人として基金側(鹿児島県知事)の逆転勝訴に導いた。原告側が最高裁に上告し、最高裁は、公務として行われたバレーボールの試合に出場した際に急性心筋梗塞を発症して死亡した場合につき同人の死亡とバレーボールの試合に出場したこととの間の相当因果関係を否定した高裁の判断に違法があるとして、高裁に差し戻した。
2006年3月の最高裁判決(第2小法廷)は、脳・心臓疾患等に関して業務(ないしは公務)起因性が肯定された裁判例として、判例タイムズ、判例時報いずれにも掲載され、最高裁判例・労働事件裁判例として重要な位置を占めている。基金側が控訴して高裁で逆転勝訴したおかげで、最高裁まで争われた結果といえば、遺族側にとっては多大な苦労をおかけしたが、過労死認定のあり方を改善し大いに感謝される司法判断が残った。
なお、差し戻し審で福岡高裁は、「自然の経過により心筋梗塞を発症させる寸前にまでは増悪していなかった」と認め、バレーボール試合への参加により、心臓に過重な負荷がかかり、これが直接的契機となって、心筋梗塞か不整脈を起こして突然死するに至ったと、因果関係を認め、公務外処分の取り消しを命じている。
この3つの裁判例を見るだけでも、和田弁護士が、そんじょそこらの顧問弁護士とは違って突出した仕事をしていることがわかるであろう。「勝ってはいけない事件では勝たず、最高裁の判断をあおぐべき事件では上告してきちんと負けて判例を後世に残す」という、弁護士として実に立派な仕事をされているのである。
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