18日、政府は、差別や虐待など人権侵害に対する救済機関を新たに設置する人権侵害救済法案を閣議決定した。同法案は、8月29日の民主党法務部門会議(座長・小川敏夫前法務大臣)で了承されていた。
閣議後、藤村修官房長官は、記者会見で「政府として人権擁護の問題に積極的に取り組む姿勢を示す必要がある。次期国会提出を前提に、法案の内容を確認するために閣議決定した」と述べている。
人権侵害救済法案は、人権の擁護に関する施策を総合的に推進することを「国の責務」と明記。人権委員会は、法務省の外局として設置され、政府が国会の同意を得て委員長と委員4人を選任する。全国の法務局に調査を委任でき、対応状況は毎年、国会に報告し、公表される。自民党政権時代の人権擁護法案で問題視された調査拒否に対する制裁規定はないが、事案の公表や人権侵害を行なった者に対する勧告を行なう権限を持つ。
従来の人権擁護委員にはない強い権限を付与する同法案には「人権侵害の定義が曖昧で、拡大解釈をされて言論統制につながりかねない」との批判が保守層を中心に根強い。
もともと2002年3月末で失効した同和対策事業特別措置法に代わる法制度として、部落解放同盟などの人権団体や連合(日本労働組合総連合会)が推進を働きかけてきたもので、民主党のマニフェストにも明記されていた。
性別や出身地、思想信条などを理由とした不当な差別は許されないが、差別表現に対する糾弾を通じて表現の委縮や言葉狩りが広がった経緯から、法律で規制をかけることへの懸念は学者、文化人からも出されている。解散総選挙が近いといわれるこのタイミングでの閣議決定には、民主党の支持団体に対するアピールとの見方もあるが、政府与党内でも賛否がわかれており、法案の成立は不透明である。
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