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日本国家"根源的変革"の処方箋シリーズ

世界を席巻する日本企業と新エネルギー革命(前)~藤井厳喜氏・特別寄稿
日本国家"根源的変革"の処方箋シリーズ
2012年10月 4日 10:48

 日本経済は長期のデフレ不況を脱することができず低迷している。かつて520兆円あった日本の年間国内総生産は、470兆円までに減少してしまった。地方都市でのシャッター街は拡がり続け、失業率は高止まりしたままである。東日本大震災からの復興は、遅々として進まない。経済苦境を主な原因とする自殺者は1998年から年間3万人を超え、すでに14年もこれが連続している。
 世界に冠たる存在であった日本の家電産業の凋落も著しい。パナソニック、ソニー、シャープなどが2012年3月期の決算では、巨額の損失を計上している。かつて世界の半導体産業の覇者であった日本企業も急速に衰退している。エルピーダメモリとルネサス・エレクトロニクスは経営破綻し、再建の見込みは薄い。

 民主党・野田政権は、経済成長のグランド・ストラテジーもまったくないままに、消費税増税路線に突き進み、このままでは日本経済は奈落の底に叩き込まれそうな趨勢である。世界経済を見渡せば、ヨーロッパ経済が本格的な不況に陥るのは今からであり、アメリカ経済はリーマン・ショックからは、やや立ち直ったものの、再び2番底へと下降しつつある。かつて世界を驚かせたBRICs諸国の発展も、完全に頓挫してしまった。日米欧の先進国マーケットが低迷するに従い、先進国へモノを輸出することで発展してきたBRICs諸国の経済も連動して不況に陥ったのはあまりに当然の結果であった。

earth.jpg こんな状況のなかで、「日本企業が世界を席巻している」というと、著者の頭を疑われそうであるが、これは決して40年前、50年前の話ではない。日本の製造業は確かに円高で苦境に陥り、労働賃金の安い海外に生産拠点を移さざるを得ない。しかしその一方で、元気のある企業は円高を利用して、海外企業を買収するM&A攻勢を積極果敢にしかけている。また、総合商社を中心に、海外の地下資源、とくにエネルギー資源への投資や買収を日本企業は大胆に進めているのである。表面上は、日本経済の衰退を告げるニュースばかりが報道されているが、実体面では日本企業は円高の逆手をとって、グローバルに展開し、世界を席巻しつつあるのだ。

 こういったエネルギー資源への積極投資が起きてくるバックグラウンドにも注意してみる必要がある。日本の大マスコミは、ほとんどこれを正確に報道していないが、2008年以来、世界経済ではまったく新しいエネルギー革命が起きているのである。つまり、新しい種類の天然ガスや石油が大量に発見され、しかもその開発費用は、従来の石油や天然ガスより極めて安価である。今や世界には、安価な天然ガス、そして石油が膨大な量で利用可能であることがわかっており、少なくとも数百年間は安定供給できる目処が立っている。

 とくにシェールガスと呼ばれる新型天然ガスの開発は、現実にドンドン進んでおり、天然ガスを利用した発電は、発電コストを大きく引き下げている。しかもこのシェールガスは、世界に幅広く分布していることがわかっており、アメリカ・カナダなどでは、すでに巨大な新型ガス田が開発され、エネルギーコストの引き下げを現実にしている。在来型の天然ガスは、在来型の原油と同様に、中東地域に偏った形で分布しているが、非在来型のシェールガスなどの新型の天然ガスはまったくそうではなく、世界に均等に幅広く分布している。日本列島でこのシェールガスを発掘できると推測する専門家もいるほどである。

 原発推進だ、反原発だ、と空疎な政治的対立を続けているうちに、世界のエネルギー状況は、まったく新しい局面に突入してしまったのである。最早、原発より、安価でかつ安全な発電ができるようになってしまったので、原発推進か反原発かの議論自体が、まったく無意味になってしまったのだ。今や、原発論争は、イデオロギー闘争、もしくは神学論争の様相を帯びているが、それは新しい経済的現実とはまったく無縁のところで戦わされている空理空論の論争でしかない。

(つづく)
【藤井 厳喜】

| (中) ≫

<プロフィール>
fujii_p.jpg藤井 厳喜 (ふじい げんき)
1952年、東京都江戸川区生まれ。国際政治学者。(株)ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。77~85年、アメリカ合衆国へ留学。クレアモント大学大学院で政治学修士号取得。のち、ハーバード大学政治学部大学院へ進み、政治学博士課程修了。ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員、政治学部助手を経て帰国。ラジオ・テレビで活躍するほか、三井信託銀行、日興証券などの顧問、財界人の個人アドバイザーを務める。著書多数。82年8月以来、発行している会員制情報誌「ケンブリッジ・フォーキャスト・レポート」は、90年代日本のバブル崩壊、アメリカの株価上昇、2008年9月以来の世界金融恐慌などの大胆な予測を数多く的中させてきた。


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