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日本国家"根源的変革"の処方箋シリーズ

世界を席巻する日本企業と新エネルギー革命(中)~藤井厳喜氏・特別寄稿
日本国家"根源的変革"の処方箋シリーズ
2012年10月 5日 07:00

<2011年、世界一になった日本企業によるM&A>
bi_2.jpg 2011年、日本企業が外国企業を買収対象として行なったM&Aの総額は、過去最高の837億ドルであった。振り返ると、過去10年間に渡り、M&A案件に占める日本企業の買収資金は、世界のM&A買収総額の常に2%から3%を占めるにすぎなかった。ところが、金額ベースのこの数字が2011年には突然、9%に急上昇したのである。中国企業による外国企業買収が巨大規模に上ることはよく話題になる。しかし、2011年に限ってみれば、日本企業が国外に投じた金額のほうが、中国企業が国外に投じた金額よりも、250億ドルも多かったのである。しかも、本年2012年の1月から5月だけでも、日本企業は外国企業を対象としたM&Aに、すでに354億ドルを投入しており、これは過去最高であった昨年に匹敵するペースである。

 これが話題にならない理由の1つは、資源確保や製造業の実務的拡大のための、地味なM&Aが多いからである。言い換えれば、1980年代に人目を引いたような派手な企業買収が影を潜めているということでもある。三菱地所のロックフェラーセンター買収や、ソニーによるコロンビア映画買収のような人の耳目をそばだたせるような派手な企業買収はスッカリ影をひそめたのである。その一方で、製造業の基盤を広めるような、あるいはエネルギー資源を確実にするようなタイプの地道なM&Aが着々と行なわれている。これが現実の経済社会である。テレビや新聞や雑誌の一面から受ける印象だけで、世界経済の動向や、日本経済の実態を判断してはいけない。

 最近の目立った日本企業による外国企業買収の実例を挙げておこう。日本の貨幣処理機メーカー最大手のグローリー社は、イギリスの同業大手タラリス・トプコを10億ドルで買収している。業界では大きな事件であったが、この買収事件に関する記事は、イギリスを中心とする世界有数の経済新聞ファイナンシャル・タイムズ紙にすら掲載されなかったものである。旭化成は、ゾール・メディカル社を22億ドルかけて買収している。丸紅は56億ドルを投じて、米穀物商社ガビロン社を買収している。

 オリジナル・カロリーベースで、自給率39%しかない日本にとっては、食糧輸入は重要だと思うので、丸紅によるガビロン社買収について、少し詳細に見ておきたい。結論として言えることは、この買収によって、丸紅は、カーギル社などと同様の穀物メジャーの一角を占めることになったのである。丸紅が、米穀物商社3位のガビロン買収を発表したのは、今年5月29日であった。米投資ファンドなどから、全株式を36億ドルで9月を目処に取得することになっている。ただし、ガビロンのもつ負債を含めると、買収総額は56億ドルとなり、これは様々な買収を手掛けてきた丸紅にとっても、過去最大の投資案件となる。丸紅の世界の穀物貿易における取扱量は、2013年3月期の見通しで、2,500万トンであり、国内トップである。これにガビロンの取り扱い分800万トンを上乗せすると、3,300万トンとなる。米カーギル社など、穀物メジャーの取扱量は年間3,000万トンから4,000万トンであるから、丸紅は、押しも押されもしない穀物メジャーの一角を占めることになるのだ。資金に関しては、手元の預金と一部銀行借り入れで対応することになっている。純有利子負債倍率を2012年3月の1.92倍から、2013年3月の1.8倍に引き下げる目標については、丸紅はこれを順守できると発表している。つまり、巨額の債務を抱え込むことなしに、自力でこの程度の買収は可能である、ということなのだ。日本の総合商社の底力を見せた巨額M&A案件である。

 筆者は、かねてから、円高のマイナス面ばかりを見て悲嘆せず、円高のプラス面を積極的に利用すべきであると主張してきた。海外企業の買収や、日本に足りない天然資源、とくにエネルギー資源の確保は、まさに円高の強みを生かせる最も有効な分野である。エコノミストや政治家に言われるまでもなく、日本企業は実務ベースで、したたかにこの方向に円高を利用して活発に企業活動を拡大してきたのである。1つの指標になるのが、総合商社の活躍である。一時期、「総合商社の時代はもう終わった」と言われたものだが、その後、日本の総合商社は、力強く復活している。週刊エコノミスト誌2011年7月19日号は「商社 絶好調!」という特集を組んでいる。サブタイトルには、「資源だけではない:電力、食糧、プラントの実力」「ガス黄金時代の覇者へ、電力総出力が中電に肉薄」とある。

 大手商社5社の2011年3月期の業績を見てみよう。
1005_hyo.jpg
 上記の表を見れば、エコノミスト誌が「商社絶好調」とタイトルを付けた理由も容易に理解できる。これらの巨額利益のけん引力となっているのが、エネルギー資源投資であり、とくにシェールガスと呼ばれる新型エネルギーへの積極投資である。そこで、シェールガスの開発を中心とする世界の新エネルギー革命の概要について、次に簡単に見ておきたい。

(つづく)
【藤井 厳喜】

≪ (前) | (後) ≫

<プロフィール>
fujii_p.jpg藤井 厳喜 (ふじい げんき)
1952年、東京都江戸川区生まれ。国際政治学者。(株)ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。77~85年、アメリカ合衆国へ留学。クレアモント大学大学院で政治学修士号取得。のち、ハーバード大学政治学部大学院へ進み、政治学博士課程修了。ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員、政治学部助手を経て帰国。ラジオ・テレビで活躍するほか、三井信託銀行、日興証券などの顧問、財界人の個人アドバイザーを務める。著書多数。82年8月以来、発行している会員制情報誌「ケンブリッジ・フォーキャスト・レポート」は、90年代日本のバブル崩壊、アメリカの株価上昇、2008年9月以来の世界金融恐慌などの大胆な予測を数多く的中させてきた。


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