＜シェールガス・シェールオイル革命で低エネルギー価格の時代が始まった＞
　新しいエネルギー革命の担い手は、天然ガスにおいてはシェールガス、コールベッドメタン（CBM）、タイトサンドガスであり、石油においては、シェールオイルと呼ばれる新世代のエネルギー源である。これまで利用されてきた「在来型」の石油や天然ガスとは全く異なった地質学的な構造に埋蔵されており、それ故にこれらのエネルギー源は「非在来型」と呼ばれている。

　少し詳しく説明しよう。

　非在来型の天然ガスの確定埋蔵量は、すでに在来型の５倍以上に達している。このなかで、先頭を切って実用化したのが、シェールガスである。アメリカの天然ガス生産は、2005年を大底に急増をし始める。この年、アメリカでシェールガスの商業生産が開始されたためである。2009年には、シェールガスの増産の故に、アメリカは世界最大のガス生産国になっている。アメリカに埋蔵されているシェールガスだけで、日本が消費する天然ガスの260年分も存在する。人類が、現在のペースで天然ガス消費を続けるとしても、ゆうに600年を支える量が世界中に眠っていることが明らかになっている。しかも開発コストは安く、二酸化炭素の排出量も石炭や石油よりはるかに少ないのである。シェールガスの実用化は、世界のエネルギー地図を激変させてしまったのである。
　今や、天然ガスは、供給過剰状態にある。アメリカの天然ガス価格は2008年夏のピーク時から、2009年９月までに、何と６分の１以下に暴落してしまった。

　なぜ、シェールガス革命が突然、起きてきたのだろうか――。

　シェールガスの存在は従来からも知られていたが、開発コストが著しく高く、実用化はとても不可能であると思われていた。しかし、アメリカの中堅石油企業は、米国内の天然ガスを地道に開発する技術革新を積み重ねていった。中堅エネルギー企業は、メジャーに対抗して海外に巨額な投資を行なうことは不可能であり、米国内にある天然ガス田を地道に開発するという経営戦略をとったのである。中堅石油企業は、従来培ってきた水平掘削、水圧破砕、三次元探査、マイクロセンシング（微細探査）などの既存技術を組み合わせて、シェールガス開発に成功した。それ以前では、非在来型の天然ガスの生産コストは、100万BTU（英熱量単位）あたり200ドル以上であったが、画期的な技術開発の結果、生産コストを同じ単位当たり、2.5ドルから２ドルまで低下させることに成功したのである。これによって、2005年以来、安価な天然ガスが全米に供給される事になったのである。

　さらにこのシェールガスの開発手法を応用して、実用化するようになったのが、シェールオイルと呼ばれる非在来型石油である。（シェールオイルというと、オイルシェールやオイルサンドと混同されるかもしれないが、これは全く異質のエネルギー源である。）
　シェールオイルは、シェールガスに続いて実用化され、2010年のアメリカの原油生産量は、前年比30％も伸びている。アメリカ国内の原油生産量は、最近１年間で、１日あたり50万バレルも増えており、アメリカは今や、世界で一番原油生産量を増やしている産油国になった。ひとえに、シェールオイルの増産の御蔭である。しかも、その原油埋蔵量が半端ではない。

　たとえば、米ノースダコタ州に、バッケン・シェールというシェールオイルの油田が存在する。この油田の単一鉱区だけで、埋蔵量は4,000億バレルと推定されている。サウジアラビアの原油埋蔵量は、公的には、2,646億バレルであるから、その量の膨大さに驚くほかはない。テキサス州のすでに開発中のシェールオイル油田の埋蔵量は、１兆バレルを超えると推定されている。しかもシェールオイルの生産コストは1バレルあたり20ドルから30ドルであるから、現在のマーケット価格（１バレル＝90ドル）が、大幅に崩壊したところで、十分に採算性があるのだ。しかもこのシェールオイルも、シェールガスも、アメリカは元より、世界中に幅広く埋蔵されているのである。プランクトンの死骸が堆積した構造であれば、世界中、どこでもシェールオイルが存在する可能性が存在するという。世界のエネルギー状況は全く激変してしまったのである。

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