韓国の李明博大統領の「竹島上陸」以来、日韓間の対立が増している。その軋轢を増長するようなコラムを、韓国の代表紙「朝鮮日報」が相次いで掲載し、日本の「韓国通」から失笑を買っている。一体どうしたというのか。1990年代の初め、朝鮮日報の建物のなかで特派員をしていた者としては、驚愕するしかない。
<韓国代表紙名物コラムで下劣で醜悪な文章掲載>
朝鮮日報の「萬物相」と言えば、朝日新聞「天声人語」、毎日新聞「余録」、読売新聞「読売手帳」に相当する名物コラムだ。ところが、9月25日の同コラムには、「外国国旗の冒涜」と題する醜悪な文章が掲載された。日本の右翼団体が「ゴキブリの描かれた」韓国国旗を破り、踏みつけ、冒涜したことへの怒りの文章だ。
<他人を踏み付けることに快感を覚える加虐本能が、日本人の遺伝子のなかに今なお流れているのだろうか。国と国の間に争いがあったとしても、相手が大切にしている価値をないがしろにしないというのは、必ず守るべき最後の一線だ>
<日本文化には以前から猟奇的、怪奇的な要素が多かったが、それにしても最近の日本列島はついに巨大な虫に変化し始めたかのようだ>
こんな下劣な表現が、"韓国の代表紙"の名物コラムでまかり通るとは、「朝鮮日報も日本の右翼団体のレベルまでに落ちたのか」――、と言うしかない。自国民による「外国国旗への冒涜」行為に言及しないような、韓国紙の一方的な論議の展開はいつものことだ。このコラムを書いた論説委員は、欧米畑の特派員出身だ。日本にはアレルギーがあるのかも知れない。
<もはや噴飯もの劣化の激しい朝鮮日報>
さらに、ひどかったのが、9月9日のコラムだ。「慰安婦狩りを告白した日本人」。筆者は、元東京特派員。読んでみて、驚いた。日韓の研究者から「ねつ造本」と烙印を押されている吉田清治著「朝鮮人慰安婦と日本人」(1977)を、まるで新発見のように、延々と紹介しているからだ。
あきれてしまった。ここまで不勉強な記事を朝鮮日報は、どうして堂々と載せているのか。最近、日本関係の記事で朝鮮日報は「劣化」の度が激しいが、ここまでくると、もはや噴飯ものである。
吉田清治氏の証言が当てにならないことは、朝鮮日報の「身内」に聞いてもわかる。朝鮮日報主筆の奥さんは、ソウル大の教授である。彼女は従軍慰安婦問題の研究者として知られる。彼女たちがまとめた「強制的に連行された朝鮮人慰安婦たち」(僕は韓国語原文で読んだ)という本を読んでごらんなさい。「吉田清治が語っているような(強制連行の)事例は確認できなかった」って書いてあるから(笑)。その後、まともな研究者なら、韓国人でも相手にしていない本なのである。
「(慰安婦を強制連行したという)証拠があるなら、出してみろ」という橋下徹・大阪市長の挑発に乗って、こんなコラムを掲載するようでは、日韓間の「歴史認識」でどっちがまともか、少なくともマスコミレベルでは勝負がついたようなものだと、言うしかない。
9月1日の産経新聞「ソウルからヨボセヨ」では、ベテランの黒田勝弘支局長が痛烈に朝鮮日報を皮肉っている。
<韓国で「朝日」が大問題になっている。朝に昇る太陽、つまり朝日は「旭日」ともいう。だから朝日をかたどった旗を「旭日旗」といい、時には「旭日昇天旗」などといったりする。威勢がいいので日本では戦前、軍旗にも使われ、現在は海上自衛隊が自衛艦旗に使っている>
<ところが韓国では日本軍国主義の象徴と信じ込まれ何かというと非難の対象になる。そのとばっちりで、先のロンドン五輪の際、日本の応援客が「旭日旗」を振っていたのはケシカランとか、女子体操選手のユニホームの朝日をあしらったデザインは「軍国主義イメージ」で問題だ、といった反日嫌がらせ議論が執拗に続いている>
(中略)
<韓国紙は東京での女子サッカー日韓戦のスタンドで「旭日旗」が振られた風景を1面トップ記事で大々的に非難報道している。いつもの思い込みによる反日報道だが、いやはや。ところで朝日新聞はこの「旭日」を社旗に使っているのだが、問題ないのかしら>
<まあまあ妥当な安部自民への見方>
さて、「安倍自民党」への韓国代表紙の見方はどうか。9月27日の東京特派員の記事を最後に紹介しておこう。
<安倍氏が首相に返り咲き、自らの公約を実際に推進した場合、韓日中関係は最悪の状況に陥る見通しだ。李明博大統領が独島を訪問して以降、硬化の一途をたどる韓日関係は、両国で新政権が発足した後も、改善の余地がなくなる。だが、安倍氏はかつての首相在任中、靖国神社に参拝せず、また旧日本軍による従軍慰安婦の強制連行を否定したものの、米国の批判を浴び、一歩引いている>
これについて、世宗研究所の陳昌洙日本センター長は、「安倍氏が首相になった場合、中国をけん制するため、韓国との関係の正常化を推進し、公約をある程度撤回するなど、現実的な路線を歩む可能性もある」と語った。一方、尖閣諸島の領有権をめぐり日本と対立する中国は、安倍氏が言うことを聞くよう仕向けるため、「強硬な政策で日本をさらに追い込む可能性もある」。
まあまあ、妥当なところかな。
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。07年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。
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