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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(5)
経済小説
2012年10月17日 07:00

<谷野頭取包囲網(5)>
 いよいよ最後の議題である谷野頭取更迭後に、誰を頭取とするかの議論が始まった。
 2002年6月、谷本亮二頭取は76才で相談役に退いて、61才の谷野銀次郎専務に頭取職を譲り、会長には60才の栗野和男専務が就任した。15才の大幅な若返り人事は、日経、読売、朝日、毎日新聞などの全国紙を始め、NHKや地元の各テレビ局、地元紙の西部新聞や金融雑誌などにも取り上げられ、維新銀行は谷野新頭取のもとで、新しい時代を迎えることになったと大々的に報道された。

kaigi_1.jpg しかし新頭取誕生から僅か10カ月足らずの03年4月25日の金曜日、谷本相談役の指示を受けて、谷野頭取を罷免する「TK計画」が維新銀行東南支店の支店長室で密かに進行していた。
 出席者の沢谷専務取締役東南支店長、吉沢常務取締役西京支店長、北野常務取締役安芸本部長、松木取締役東部支店長の4人は組合幹部出身の役員であったが、メンバーに加わることになっている川中常務取締役営業本部長と大島取締役本店長の2人も同じ経歴であった。

 維新銀行の従業員組合は谷本が手塩にかけて育てた組織であり、谷本が頭取になってからは、組合幹部出身者を取締役に昇格させる人事が目立つようになっていた。この組合幹部出身の役員が同期の行員たちと比較して、飛び抜けた能力を持っているわけではなかった。
 中世ヨーロッパで見られたギルド制度は封建的な絶対君主の庇護の下に特権を与えられた特異な集団であったが、維新銀行も同様に、組合幹部出身者で第五生命の山上の保険勧誘に協力した者を役員に登用するギルド制度であり、この制度こそが谷本が組合幹部出身の役員に対し絶対的な影響力を持つ源泉であった。
 沢谷は、
 「谷野頭取を退任させた後の頭取だが、誰が良いだろうか」
 と、3人をじっと見据え、その顔色を窺った。沢谷は自分自身高卒でその資格はないと自覚していた。そのため次期頭取を決めるフィクサーの役割に徹し、後々に影響力を保持することを考えていた。

 この会議に出席している4人のうち沢谷と松木は高卒であり、暗黙のうちに対象外となった。残るは吉沢常務か、北野常務か、それとも今日の会合に出席していない川中常務か。この場で次期頭取が決まるかもしれないと思うと、それぞれに複雑な思いが去来し、不用意な発言ができる雰囲気ではなくなっていった。その場が次第に深刻になっていくのを見て沢谷が、
 「次期頭取にはポスト谷野の経営を担えるだけの力量と評判を持つ人物が相応しいと思う。自分としては吉沢常務を推薦したいがどうだろうか」
 と、苦渋に満ちた面持ちで吉沢の名を告げた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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