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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(9)
経済小説
2012年10月23日 07:00

<谷野頭取包囲網(9)>
 谷野頭取に対する批判は、それまで谷本相談役と栗野会長、谷本相談役と古谷取締役との間、同じように組合出身の役員である沢谷専務、吉沢常務、川中常務、北野常務、松木取締役、大島取締役の6人のグループの間で交わされていたが、組織的な動きにはなっていなかった。
 しかし沢谷専務の努力によって谷本相談役のもとに一同が会し、谷野頭取罷免へと具体的に行動することが決まった。
 谷本相談役の、沢谷への労いの言葉は出席者全員の心を一つにした。これはまさに谷本を中心として、第五生命の山上正代の保険勧誘に協力した役員たちと山上とのトライアングルが、谷野頭取罷免を目的に、赤い絆の糸によって一本に繋がった瞬間でもあった。

 沢谷が、
 「これからはこの様に一同に集まることは、なかなか出来ないと思います。折角の機会でもあり、先程、保留となっていた谷野頭取更迭の理由について何か良いお考えはありませんか。それと谷野頭取罷免後の新頭取を誰にするかもまだ決まっていませんが、この件についても何かご意見があれば、この際ですからお聞きしたいのですが」
と、出席者全員の顔を見廻して問い掛けた。
 すると会長の栗野が、
 「確かに沢谷専務が言うように、谷野頭取更迭のしっかりした理由がないとマスコミの餌食になる恐れはあると思う。僕も谷野頭取と一緒に退任するつもりであり、2人が退任する共通の理由が必要と思う。1つの案としては、『会長、頭取とも赤字決算から業績を一気に回復させたのを機会に、若手に後進の道を譲ることにした』、とするのはどうだろうか」
と、提案した。
 栗野会長の「若手に後進の道を譲る」との発言に、一同は、はっと息を呑んだ。

asimoto.jpg 沢谷は次期頭取候補として吉沢を想定していたし、吉沢自身も今日の会合で次期頭取は決まることはないと思っていた。心密かに頭取の座を思い描いていた北野にも、栗野会長の発言は大きなインパクトを与えることになった。若手と言っても具体的な名前が出たわけではなかったが、誰もが古谷取締役を指しているのではないかと複雑な思いを抱いた。
 谷野頭取罷免する目的は一緒であっても、トップの座に誰が座るかによって、自分の身がどうなるかが決まる重大な関心事であった。谷本は、役員一人一人が栗野の大胆な発言に微妙な反応を示したのを見逃さなかった。

 今この場で、次期頭取を決めると結束が乱れるのではないかと考えた谷本は、
 「栗野会長の意見も尤もだが、まだ先の話であり今決めなくても良いのではないか。こうしてみんなの気持ちが一致したのでそれに向かって進んでいこうではないか」
 と、語りかけた。
 谷本の言葉を最後に、2時間に及ぶ話し合いは終わった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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