原発は、依然として再開のメドが立っていない。福島のような事故を再び発生させないために、安全対策を新たに施していくと瓜生社長は語った。電源車を海抜の高い場所に設置し、いつでも稼働できる状態にすること、鉄塔が倒れても、その倒れた部分をう回して電気が流せるようにしていること、今後はさらなる安全対策としてフィルター付きベントや免震重要棟の設置を行うことなど、およそ考えられるすべての対策の実施を予定している旨が瓜生社長の口から語られたのである。同時に、玄海原発と川内原発の立地地点は日本海側にあり、プレート境界から離れているため、大きな地震が起こりにくいことも伝えられた。テロに対する備えも、今後は強化していかなくてはならないとも語られた。
聞いていて、正直な感想として思ったのが、なぜ巨大地震がこないとされている場所で一所懸命に地震対策を施すのだろうという点だ。巨大地震が発生しにくいということは、データを見る限り、おそらく妥当なものだろう。ならば、なぜ、玄海原発、川内原発においてはテロの対策を二の次にしているのか。講演の後で瓜生社長にうかがってみると、テロ対策は自社だけでは満足にできないから、という返答が返ってきた。たしかに、他所がやっていて、自分たちがやらないということは、不安にもなるだろうし、批判を受けかねないと思われる。けれども、現実的に起こる可能性が低い地震よりも、起こった場合に致命的な状況に必ず陥るテロ対策こそ、しっかりやるべきではないか。海からの守りが十分でないことは、九州電力自身把握しているのだ。その備えをまずはすべきではなかろうか。
さて、話は今後の経営状況へと進んでいった。2011年、2,285億円の赤字決算をせざるを得なかった九州電力。原発再稼働のメドが立たないまま、燃費効率の悪い火力発電に頼らざるを得ないことにより計上されたものだ。それだけの規模の赤字は、さすがに九州電力とはいえ、痛手となったようだ。同社は10年度末には9,600億円あった純資産が、11年度末には7,600億円にまで減少してしまっている。瓜生社長によると、このままの状況が続けば、近い将来、債務超過に陥り、電力を供給することすら難しくなる、とのことだ。
まずは社内のコストを削減し、役員報酬の3割カット、管理職以上の冬季賞与カットを行なうという。そのうえで総括原価を見直し、電気料金の値上げをお願いするというのである。
なるほど、まず隗より始めよ、ということか、と一瞬だまされそうになるが、よく考えてみると、ここもおかしい。なぜ、赤字会社で賞与が発生するのか。なぜ給与に踏み込まないのか。中小企業ではまず考えられないことである。重要なインフラである電気を人質にとり、料金値上げを脅迫しているかのような言い方にも聞こえる。これはどうやら、冷静に見ていった方がよさそうだと感じられた。
今から10年前、「日本で最も投資に適した株は東京電力株だ」と証券マンから聞いたことがある。電力各社が地域のリーダーとして、大いに活躍してきてくれたことも事実だ。今、電力各社は岐路に立たされている。それも、近い将来、崖っぷちに追い込まれるほどに。電力は重要なインフラであるがゆえに、安易な値上げには踏み切ってほしくない。もっと真剣に、もっと常識的に、信頼の再構築に努めてほしい。切にそう願うばかりだ。そんなことが感じられた懇話会だった。
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