野田佳彦首相の「自爆民主党解散」で、12月16日の衆院選挙投票日へ向けて、１カ月という短期決戦が始まった。民主党批判の受け皿になるはずだった第３極の混迷もあり、ここにきて、「判官びいき」という不思議な「風」がじわじわと吹き始めた。解散の翌日に東京で例年よりも23日遅く吹いた「木枯らし１号」のように強風となるのか、それとも吹き止むのか、はたまた別の風が吹くのか。３年４カ月ぶりの有権者の審判の行方は――。

＜「判官びいき選挙」民主党へのそよ風＞
　民主党からは離党が相次いでおり、TPP反対派の山田正彦元農相（長崎３区）は「決起の日だ」と離党して、亀井静香前衆院議員らと「反TPP」を党是とする新党を結成、消費税増税凍結、脱原発を主要政策とする考えだ。「小沢ガールズ」の１人だった福田衣里子前議員（長崎２区）も離党、選挙区もくら替えする。
　「こんな選挙は初めてだ」。解散当日の16日、福岡県内で自民党議員の選挙参謀を長年務めた人物でも驚きの声を上げた。続けて、こう語った。「判官びいき解散、『惻隠の情』という風が、そよ風だが吹き始めたよ」。
　野田首相は、11月14日の党首討論で、自民党の安倍晋三総裁の虚を突いて「解散」を表明し、人間の「格」の違いを見せ付け、民主党を見る国民の目がアップした。
　元選挙参謀は「離党が多ければ多いほど、みじめな姿をさらけ出せばさらけ出すほど、判官びいきが民主党を助ける。自民党は思ったほど伸びない」と予言する。
　解散直後にマスコミ各社が行なった世論調査では、投票予定先は自民党が引き続きトップだが、"予言"が的中するように、民主党の支持がじわりと回復した。
　「葉隠」の「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」ではないが、民主党にとどまって「野田首相と心中してでも、前へ政治を進める」と訴えれば、活路が見い出せ、有権者は目を向けるかもしれない。１年生議員も再選すれば２期目、民主党を背負って立てる日も近い。

＜関心高いが、時間も人手もない＞
　解散直後の週末は、各陣営の候補者が地元を駆け回った。
　前職候補の動きも慌しい。もともと予定していた選挙区での行事に出席するため、解散詔書が読み上げられた本会議を欠席し、早々と選挙区に帰った大臣経験者もいる。小選挙区で勝ち抜く厳しさを知るだけに、「１年生議員じゃあるまいし、ありがたがって万歳している場合じゃない」という心境なのかわからないが、すでに事実上の選挙戦に突入している。
　政権交代が起きた前回選挙から３年４カ月ぶりの衆院選挙への、国民の関心は高い。

　しかし、今はどの企業も年末に向けて多忙な時期だ。「失われた10年」「20年」と言われる経済状況にあえいでいる。16日には、政府の月例経済報告が景気判断を４カ月連続下方修正。個人消費や企業収益を２カ月ぶりに引き下げた。雇用判断の引き下げは１年５カ月ぶりだ。いよいよ景気後退局面入り。来年３月末には、金融円滑化法の期限切れを迎える。
　企業を訪問すると、「いつもの年末の２倍の仕事量をこなしている。従業員もフル回転だ」との答えが返ってくる。これは、「政権の座へ返り咲くチャンス」とほくそ笑む安倍自民党には、実に痛い。
　自民党支持基盤の企業や業界団体が、"集票マシン"となってきた組織戦にベルトがかからなくなるからだ。頼まれれば後援会名簿や支持カードを集めたくても、その時間もなければ、動かせる人手もない。
　安倍総裁から閣僚名簿が出回ったとの噂が流れたが、真偽のほどは別として、「しめしめ」と浮かれている場合ではない。
　もっとも、安倍総裁も動きは早かった。党首討論では虚を突かれたが、15日には「デフレ脱却のため公共投資を増やす。来年度予算も景気刺激型にする」「無制限に（金融）緩和していく」などの基本政策をぶちあげた。
　第３極も、合流した日本維新の会と太陽の党が「中小・零細企業対策を中心に経済を活性化する」「消費税は地方税化し、（税率）11％を目安とする」とする合意文書をまとめた。

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