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SNSI中田安彦レポート

bail-out(ベイル・アウト)からbail-in(ベイル・イン)の時代へ~銀行破綻制度の大転換(後)
SNSI中田安彦レポート
2013年4月 6日 07:00

<世界の新しい金融レジーム>
 実はベイル・インの議論は2011年くらいからすでに始まっており、バーゼルにある国際決済銀行の中にある、金融安定化理事会(FSB)でも、グローバル銀行の安定化をどのようにして実現していくかという議論の中で議論されており、金融危機後、世界中の金融当局で対策は議論されるようになったのである。

A-3.jpg この議論で出てきたベイル・インの内容とは、「債権者に対して、保有する債券証書(debt)を株式資本(equity)に替えるか、あるいはその持分を減らすヘアカットを行なう」というものであると、イギリスのイングランド銀行副総裁のポール・タッカーが、2012年10月25日付けのFT紙で説明している。また、2012年8月30日付の同紙でも、ドイツのウォルフガンク・ショイブレ財務相が、この種のベイル・インの導入が義務付けられるのは2018年である、と説明している。実際、キプロス銀行救済でも、カット分の預金保護の対象外である10万ユーロ(約1,200万円)超の預金が、強制的にキプロス銀行の株式に転換されるということになっている。

 つまり、銀行が破綻しないようにするためには、その銀行の資本を増強する必要があり、ベイル・アウトではその資金は、例えばドイツを含めたユーロ圏域内の納税者が広く薄く負担することになり、ベイル・インでは、それを債権者(債券保有者、株主、預金者)の資産を銀行の資本=株式に転換することで行なうわけである。バーゼルⅢと呼ばれるグローバルな自己資本規制がこれから導入されるので資本不足になる銀行は出てくる。その時、ベイル・インと言う手法が使われる可能性が高い。バーゼルⅢというのは世界の金融マフィアの象牙の塔である国際決済銀行(BIS)の官僚たちが仕組んだ、グローバルな資金移動に対する「行政指導」である。

 それでは、ベイル・アウトとベイル・インのどちらが健全なのだろうか。すでに述べたように、ベイル・インでは、預金保険が保護する以上の預金はカットされる。預金保険が機能しないくらいの巨大な金融危機では、それ以外の預金も対象になるかもしれない。さらに、今回以上の資本移動自由規制(送金規制や引き出し規制)が行なわれたりすれば、世界の金融市場が麻痺する。

 一方、ベイル・アウトでは、銀行に預金している人たち以外のすべての納税者が負担を共有することになる。したがって、広く薄い負担になるが、「関係ない人の預金までなぜ守ってやらなければならないんだ!」という怒りが沸き起こり、支援国の「支援疲れ」から支援メカニズムが有効に機能しないこともありうる。

 ただ、預金保険という制度ができたのは、アメリカのFDIC(連邦預金保険公社)に関して言えば、1933年のルーズヴェルト政権時代の「グラス・スティーガル法」が成立した時である。日本で類似の制度である預金保険機構ができたのは1971年のことだった。それまでは、いわゆる乱脈経営をした「山猫銀行」が危機に陥れば、当然のように取り付け騒ぎ(バンク・ラン)が起きていたのである。どこの銀行に預金をするのかは、預金者の自己責任だった。

 銀行というのは預金者から預金を預かった時点で、預金者には債権である預金通帳(IOUともいう)を渡す。銀行はその債務である預金を使って、様々な融資や時にはデリバティブ取引のような投機的投資を行なって運用する。いまの世界では銀行は払い戻しに対応するための準備金を一部だけ持っていればいいという「部分準備制度」を採用している。だから、すべての預金者が一斉に銀行に押し寄せたら対応できない。しかし、それを防ぐために預金保険制度が存在するようになっているのである。

 しかし、大銀行にかぎらず、中小銀行がサブプライム債のような投機的な金融商品に投資することが行なわれている。銀行は貯金箱ではないのだから当然である。しかし、巨大な金融危機が起きてしまって、それが預金保険で賄えないものになった場合は、預金カットは当然にあり得る。そもそもその銀行に預金を預けるという行為はその人の自己責任で行なったものである限り、その銀行は乱脈経営で破綻した場合、一定の過失割合で責任があるからだ。それがペイオフ制度であり、だから日本では1,000万円以上の預金は保護されない可能性もあるのだ。

 一般大衆にとっては1,000万円も預金がある人はあまりいないだろうし、いくつかの銀行に分散しているだろうから、あまり心配はいらないが、これが1,000万円ではなくて500万円になったら結構えらい騒ぎになると思う。

 いずれにせよ、金融の仕組みというものも時代の流れに応じて見直されるものだ。折しも今年は1913年に連邦準備銀行(FRB)が誕生して100年。翌年には第一次世界大戦が起きている。時代の大きなうねりの中で金融制度も変貌していく。米国では連邦準備制度100年を期に、「100周年金融委員会」を作るという法案が下院の共和党議員から提出されている。この委員会では連邦準備法の改正や、物価目標、インフレ目標、名目成長率をターゲットにした金融政策、金本位制の意味についても議論することを目標にしているという。(「ウォール・ストリート・ジャーナル」2013年3月25日)

 日本はとりあえずはアベノミクスによる円安と株高に酔いしれている。しかし、日本人が安倍相場という花見酒で浮かれている間に、世界の金融レジームに関する議論は着々と進んでいることを理解した方がいいだろう。

(了)

≪ (中) | 

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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