我が国最大級の地熱発電所を有する、大分県九重町の八丁原地区。地質調査から数えると、同地区の地熱発電の歴史は60年となる。現況は、九州電力によって開発された2基が稼働中である。その2基の出力は、11万2,000kWで、地元のアナリストは「我が国最大で、世界のトップクラスです。なぜなら日本が地熱発電においては、資源量で世界3位、設備容量では世界8位です。日本で最大級の八丁原は、世界有数の地熱発電所ですよ」とコメントする。その八丁原地区は「さらなる地熱発電の可能性が秘められている」と業界内外でクローズアップされている。我が国の地熱発電の概要を交えながら、八丁原地熱発電所の現況と今後の可能性についてレポートする。
<再生可能でクリーンな純国産型エネルギー>
地熱エネルギーは、なぜクローズアップされているのか。ポイントは、次の3点。
(1)再生可能エネルギーであること
雨水や河川水が地中深くまで浸透した地下水の一部は、マグマで熱せられ、難透水層の下に地熱貯留層をつくる。そこから噴出する蒸気や熱水によって発電する地熱発電は、化石燃料のように資源が枯渇する心配がなく、計画的に使用すれば永続的な利用が可能とされる。また、蒸気とともに噴出した熱水は河川水と熱交換することで造成熱水をつくり、農業用ハウスや魚の養殖、地域の暖房などに再利用されるケースもある
(2)クリーンエネルギーであること
火力発電の場合、石油や石炭、天然ガス等を燃やし、燃焼ガスや水を沸騰させてつくった蒸気でタービンを回して発電する。一方、地熱発電では自然が生み出す蒸気を使って発電する。そのため、CO2の排出量は火力発電の約20分の1、太陽光発電や風力発電と比べても約2分の1、まさに地球に優しい発電方法と言える。また、蒸気とともに噴出した熱水は、還元井と呼ばれる井戸を通じて地下深くに戻される。
(3)純国産エネルギーとして
環太平洋火山帯に位置する我が国は、大地に宿る豊富な地熱資源に恵まれている。エネルギー資源である石油・石炭・天然ガスのほとんどは輸入に頼っているが、我が国の豊富な地熱資源は単純計算で大型火力・原子力の約20基分と推計。これを有効に利用することは、エネルギーの国産比率を高め、輸入に頼る石油・石炭など化石燃料の節約にもつながる。地熱源の熱マグマは、半永久に存在すると言われており、エネルギー資源が枯渇することなく安定的な供給が国内において可能である。
以上のような点から、地熱エネルギーは我が国において将来的にアドバンテージが大きい。
<25~50万kWをさらに創出可能か>
1967年に、九州電力が電力会社として我が国初の地熱発電所を開始したのが、同じ大分県九重町の大岳地熱発電所である。当時の日本地熱調査会会長であった松永安左ェ門氏は、「良質、低廉、豊富な地熱エネルギーをもってすれば、わが国経済力の発展は期してまつべきものがあるであろう。わが国に優秀な(蒸気)生産井1,000本の開発、これは私の現実の夢である」と同会会報で綴ったと言われる。そして次に選ばれたのが、八丁原であった。
現在、地域と発電所は共存共栄の関係を構築した。しかし、当初は堀削してもなかなか蒸気に当たらないなどの技術的な課題や、「温泉が枯渇するのではないか」という地域の猛反発も発生するなど、困難の連続のなかでの稼働であったという。その困難を乗り越えて実現させたのは、当時の九州電力のスタッフの、地熱エネルギーを自らの手で生み出して将来の我が国エネルギーの中核を担うという使命感だったのではないだろうか。
一説では、八丁原における地熱発電はまだ開発できる可能性があるという。関係者によると、「推計であるが、少なくとも25~50万kWを出力する可能性が存在している。八丁原はその源が豊富である」という。精密な調査を実施する必要はあるが、次世代エネルギーの我が国の中核を担う可能性を秘めていることはたしかである。
ただし、地熱発電の建設コストは1kW当たり約5万円が目安で、決して安価ではない。そうした初期コストが莫大なことに加え、調査から竣工まで10~15年の歳月を要する。また、償還にも10年以上が必要となり、導入にはタイトな側面もある。だが、環境共生や地域活性などのメリットも期待大であり、新たな八丁原での地熱発電開発がそのキーファクターの1つに挙げられている。
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