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「答えのない世界」でキャリア形成を考える!~「ベーシスト 究極の選択」板谷直樹著(リットーミュージック)
書評・レビュー
2013年8月28日 11:37

 今、バンド、ギター奏者等プロの音楽家を目指す学生や若いプロ音楽家の間で話題になっている1冊の本がある。音楽の世界は形が見えづらく、プロになるために、そしてプロとしてやっていくために、「何が正しく最善なのか」と悩む「答えのない世界」である。本書には、著者が今までの活動の中で感じたこと、実践の中で行ってきたことが書かれてあり、若者の心に響くと言う。

 「キャリア形成」の専門家は右脳を多く使うと言われる専門職(音楽家、写真家等いわゆる芸術家といわれる人達)を"聖域"としており、語ることはほとんどない。しかし、「キャリア形成」の目的を「仕事をして生計を立てていくこと」と考えると、ビジネスパーソンも音楽家も変わらないのかも知れないと本書を読んで感じた。実に多くの示唆に富んだ面白い本である。

 著者板谷直樹氏は、奨学生として米国の名門バークリー音楽大学を卒業した新進気鋭のベーシストである。現在はアーティストのライブやレコーディングを中心に活動している。「音楽を通じて、社会に喜ばれ、人の役に立つ」ことが自分のミッションと言う。実力派ベーシストを育成する板谷氏主催の講座は今年で12年目を迎える。

 読者に本書を紹介する理由は、音楽の世界に限らず、わずか30年前には存在した日本ビジネス社会の「キャリア形成」成功方程式が、今は存在しないからである。「答えのない世界」に突入したと言える。これからの若者は将来、必ず予想もしなかった"転機"に遭遇する時が来る。その時、それぞれの感性で本書から得たものがきっと役に立つのではないかと思う。

 本書は第1章INSTRUMENTS(楽器)~PRACTICE(練習)~RECORDING(録音)~REHEARSAL (リハーサル)~PERFORMANCE(ライブ)~第6章LIFE PLAN(ライフプラン)の全6章、60の項目でできている。全てが2択構成であるが、あえて2択のどちらが良いかは明言されていない。読者が自分で考えなさいということらしい。

 「実践の中でよりよい音を届ける道具の一部分としてとらえ、あまり迷信に振り回されないように、自分の耳を信じたい」(第1章INSTRUMENTSの項目09で、「良質なケーブルと高価なケーブルの詳細解説をした後で)

 「誰でも簡単にすぐできる」という甘言や「魔法のような方法があるのではないか」というような考え方に惑わされずに、コツコツとじっくり取り組む姿勢でいたい」(第2章PRACTICEの項目12「ゆっくり弾くか、速く弾くか」)

 「先輩ミュージシャンが非常に難しそうなフレーズを"十分時間をくれ"と言ってひたすら練習する姿を見たことがあります。そこには弾けなくて恥ずかしいという気持ちや、周りの人間が待つことになって迷惑だなんて雰囲気は1つもなく、チームとして音楽を完成させようとする前向きな姿に皆大きく感動させられました」(第4章REHEARSALの項目40「"できない"と言うか言わないか」)

 「体力のあるうちは寝なくてもダウンしません。20代は少々の無理ができるのです。血がでるくらい何かに没頭する時間があって良いのではないでしょうか。音楽の研究、自身の楽器の探求に10年間は力を注ぎ、遊びの時間や睡眠時間を減らしても良いのです」(第6章のLIFE PLANの項目51「20代でやっておくべきこと、30代でやっておくべきこと」)

 板谷直樹氏は、バークリー音楽大学時代の「留学体験記」も構想中らしい。日本と米国の教育方法や方針の違い、それが音楽の世界での「キャリア形成」にどのような影響を与えているのか等、とても興味深い。

【三好 老師】

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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