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規制改革論議に憑りつく利権まみれ政商の影~植草一秀氏
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2013年10月 3日 16:57

 NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、順風満帆の安倍政権が謳うものは弱肉強食政策であるにもかかわらず、国民の大多数を占める弱者までもが支持しているという矛盾を突き、規制改革論議の暗部をしっかりと見つめなければならないと述べている。


 9月25日が9月末の株式配当権利付売買の最終日。9月26日に権利落ちとなる。
 米国株価が小反落して、日本株価も連れ安になり易い局面だが、日本株価は持ちこたえた。
 9月末の配当獲得の権利を得るため、投資家の多くが、9月25日時点の株主の地位を得ようとするからだ。

 9月26日は権利確定後になるので、投資家は売却意向の株式を手放すことになる。
 その9月26日、日経平均株価が前日比179円高の1万4700円で取引を終了した。
 取引時間中には、1万4410円まで値を下げたから、日中の上昇幅は389円に達した。
 権利落ち日に株価が急伸し、日本の株式市場の地合いが強いと判断した投資家も多いのではないか。
しかし、油断大敵である。

 『金利・為替・株価特報』2013年9月30日号に記述したが、この先の日本株式市場には最大の警戒が必要になる。

 安倍晋三氏は外遊を繰り返し、今週は、米国を訪問した。9月25日にニューヨーク証券取引所で行ったスピーチでは、「世界経済回復のためには、 "Buy my Abenomics"の3語で十分だ。」と述べた。
 中畑清横浜ベイスターズ監督同様、「絶好調」なのだ。
 投資環境の重要な変化については、『金利・為替・株価特報』をご高覧賜りたいが、一言で言って「いつか来た道」なのだ。 10月1日には日銀短観9月調査結果が発表になる。この日、安倍首相は2014年4月に消費税率を8%に引き上げる方針を会見で発表するのだろう。
 そして、10月7日には、インドネシアのバリで開催されるAPEC首脳会議に出席する。
 もうひとつの最重要事項であるTPP参加の悪夢が日本を襲うことになる。
 昨年12月に発足した安倍政権。12月総選挙と本年7月参院選に大勝して我が世の春を謳歌しているが、国民の側が浮かれる要因は決して多くはない。
 株価が上がったことと、オリンピック招致が決まったことが、安倍政権絶賛の背景を成しているが、これとて、賛否は分かれる問題だ。
 株価上昇は悪い話でないが、上昇したのは5月22日までで、それ以降は、緩やかながらも下落している。
 オリンピックは、利権を得られるメディアが絶賛しているが、福島の惨状を踏まえれば、「オリンピックの前にやるべきことがある」というのが、正しい判断である。

 安倍政権の足元を掬うことになる、最有力の要因は、日本経済の崩落である。私が強調してきたように、2014年度の財政デフレの規模が22兆円になることを見落としてはならない。
 この指摘を示している者は、現段階では私以外に存在しないが、もっとも重大な事実である。そして、日本株高を支えてきた円安の流れにも、目先は変調の可能性が存在する。
 中国は、依然として崩壊論が根強く存在するが、私は一貫して、2014年の底入れの可能性を強調してきた。9月23日に発表されたPMI指数の意味は極めて重要である。
 安倍政権の経済政策がうまくいっているように見える理由は、株価が昨年11月と比べて高くなっていることだが、その最大の理由は、野田政権の経済政策が最悪だったことだ。安すぎた株価が適正水準に回帰しただけのことなのだ。

 国民が考えなければならないことは、安倍政権が目指す経済社会の方向が正しいのかどうかという点だ。現実の経済政策の細部を見ると、その根本精神は、「弱肉強食奨励」でしかない。したがって、弱肉強食で勝利者になると考える人が安倍政権支持者になることは理解できるが、弱肉強食で敗北者になる人が安倍政権を支持するのは、おかしいのである。
数の上では、ほんの一握りの者だけが勝利者になり、大多数の残余の人々が敗北者になる。数の上では、弱肉強食で敗北者になる人が圧倒的に多いのである。
 このことから、安倍政権の弱肉強食政策が支持されることは、一種の論理矛盾を含んでいる。言い方を変えれば、弱肉強食政策で敗者になるにもかかわらず、この弱肉強食政策を支持してしまっている人が多いということになる。

 TPPは、グローバルに、弱肉強食原理を中心に据えようとするものである。その弊害は深刻に広がることになるだろう。
農協は当初TPPに反対していたが、安倍自民党が国会多数を支配すると、腰砕けになってしまっている。表向きTPP反対の旗を掲げているが、最終的には利権との取引でTPPを容認する構えである。

 日本のTPP参加に向けて、安倍政権は既成事実を積み上げようとしている。これを「成長戦略」の装いで推し進めているのだ。
 安倍政権が推進する「成長戦略」の柱は次の五つである。

 農業・医療・解雇の自由化。
 それを実現する経済特区の創設。
 そして、法人税減税である。

 農業自由化とは、株式会社による農業への参入を広く認めることである。これによって、零細農業は消滅させられる。大資本が大規模に農業に算入すれば、利益産業になる。恐らく、日本農業は外国資本によって支配されることになるだろう。そして、この農業は輸出産業に転化する。これによって、日本の経済的安全保障は根底から破壊されることになる。
世界的な食糧危機が発生する際、日本国民は主食すら確保できない事態に直面することになるだろう。

 また、食の安全、安心も崩壊する。鈴木宣弘東大教授が『食の戦争-米国の罠に落ちる日本-』(文春新書)で強調されるように、農業には多面的な機能がある。

 国土保全、環境保全、生物多様性維持などの重要な機能があるが、これらの機能も根底から破壊されることになるのである。

 医療の自由化は、日本社会の本質を根底から変質させる影響力を発揮する。現行の国民医療制度は、医療に経済格差を持ち込まないことが基本になっている。
 誰でも、いつでも、どこでも、十分な医療を受けられることが、日本の公的医療保険制度の最大の美点である。難病で高額医療費が必要な場合も、高額療養費制度があるから、基本的に国民は十分な医療を受けられる。
ところが、この制度が破壊される方向に乗せられている。

 安倍政権は医療を成長産業として、医療のGDPを拡大させる方針を示すが、同時に、公的な医療費支出の抑制方針を示している。全体のパイは膨らませて、公的支出は抑制する。
 これが意味することは、公的でない私的な医療費支出の金額が激増するということだ。つまり、金持ちは十分な医療を受けられるが、金持ちでない人には、十分な医療を提供しない方向に、日本の公的医療保険制度が誘導されることになるのだ。
 そして、庶民の生活を支えている、各種共済制度が破壊される。

 生活協同組合=COOP、労働組合、JA共済などの制度が破壊の対象にされるだろう。

 さらに、見落とせないのが「解雇の自由化」である。

 企業に解雇の自由を与える。企業の労働コストは削減される一方、労働者の処遇と安定は破壊されることになる。さらに、庶民の生活を押し潰す消費税大増税が強行される一方で、法人に対しては減税がさらに推進されることになる。法人税を支払っている大法人に限って、減税の巨大な恩恵が付与されることになるのだ。

 これらの、弱肉強食政策が推進されているなかで、もうひとつ、見落とせない大問題がある。それは、解雇の自由化の名の下に、政商が政治に入り込み、私欲をむさぼっていることだ。メルマガの読者が教えて下さったが、大阪府が実施する「中小企業のためのグローバル人材育成プログラム事業」も疑惑の塊である。

 大阪府のウェブサイトによると、2億5000万円の予算が計上されるこの事業の事業者に選定されたのが、PASONA & JTB ASIA Project 共同企業体である。

 竹中平蔵氏はパソナの会長に就任している。パソナはかつて安倍政権が天下りあっせん機関を設立しようとした際にも、その事業を受注する意向を示してきた企業である。オリックスによる「かんぽの宿」払い下げ事案と共通する構図が観察されるのである。
 オリックスの宮内義彦氏が日経新聞の「私の履歴書」に弁明の記述を重ねているが、重大な疑惑の核心には何も答えていない。

 宮内氏は郵政民営化が規制改革会議で取り上げるテーマでなかったとするが、郵政民営化論議が規制改革会議から経済財政諮問会議に一元化されたことは、当時の規制改革会議の議事録にも残されているのである。

 かんぽの宿の払い下げを受ける際に、600人を超える正社員を受け継ぐ契約だったとしているが、これも、所得条件等の維持は1年に限られたものだった。かんぽの宿の疑惑は、いまもまったく消えていない。規制改革政策は、「新しい利権ビジネス」なのである。規制改革論議の周辺には、常に、薄汚れた政商の影が蠢いている。私たちは規制改革論議の暗部をしっかりと見つめなければならない。

※続きは、メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』(有料)」第678号「規制改革論議に憑りつく利権まみれ政商の影」にて。


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