大阪市の橋下徹市長（日本維新の会共同代表）が、市長を辞職して出直し選挙に出馬する。看板政策の「大阪都構想」が自分の思い通りに進まないから、民意を問うというが、起死回生の切り札というより、「逆ギレ選挙」だ。

　今回の事態の背景を、橋下氏はこうぶちまける。2012年の衆院選挙で維新の会が大阪などで候補者を立てず、橋下氏が公明党を応援する代わりに、公明党が大阪都構想に協力する約束があったのに、大阪都特別区の区割り案絞り込みに公明党が同意しなかったというのだ。
　都構想の特別区設置などを議論している「法定協議会」（大阪府知事・府議、大阪市長・市議で構成）で１月31日、区割り案の絞り込みが公明、自民、民主系、共産の４会派の反対にあった。
　それを、橋下氏は「都構想の議論はストップする」「都構想のプロセスを潰す戦略」だと受け止めた。出直し選挙で勝てば、「一方的に案を絞り込んでいける」という思惑だ。

　橋下氏はこれまで、「ふんわり」とした世論を集めた個人人気を武器に、選挙で結果を出して一点突破で切り抜けてきた。局面を打開するために出直し選挙に打って出るのは、橋下氏らしいやり方だ。だが、民意を大義名分にして、住民を翻弄するやり方は、もうやめてもらいたい。

＜ダブル選挙を逃げる――橋下手法に陰り＞
　本当に「民意を問う」選挙になるか疑問だ。
　地方自治体は、国政のような議院内閣制ではなく、市長と議会を別々に選ぶ。いわば、米国の大統領制に近い。地方自治は、住民の生活に密着した課題が多い。そのため、「複線」で民意の反映を保障していると言える。
　大阪市議会（定数86）の構成は、維新32、公明19、自民17、OSAKAみらい９、共産８などだ。維新は第１党だが、単独で過半数に届かない。出直し市長選で勝っても議会構成は変わらない。橋下氏は民意を口にするが、議会に反映した民意は眼中にないらしい。民主主義は手間ひまかかる制度であり、合意形成は不可欠だ。議会サイドの合意が得られないからといって、丁寧な説明や説得、今後の法定協議会での議論という手続きを省略して、いきなり出直し選挙というのは、民主主義の省略に過ぎない。
　市政の重要課題は、都構想だけではない。来年度の予算編成も最終調整の時期を迎えている。都構想が橋下氏の目玉政策だとしても、他の課題や予算を放り出すのは、行政の長として無責任だ。
　自民や民主からは、早くも立候補見送りの声が出ている。無投票当選で不発に終わるかもしれない。

　大阪都構想の民意を問うというなら、「市長選だけでなく、府知事の出直し選挙も」と考えるのが普通だ。実際、市長選１本で行くことに対し、松井一郎大阪府知事は「それはおかしい」と抗議。橋下氏は「ダブル選はやめましょう。戦力的に危ない」と言ったという。ダブルでは負けるかもしれないと「逃げ」を打つところからして、これまでの橋下氏の手法の"陰り"は明らかだ。大阪で絶大な人気を保ってきた"橋下維新"も、慰安婦発言をきっかけに支持率が低迷。出直し選挙に勝っても、局面を打開するどころか、自滅につながりかねない。

＜「自分のケツを拭く」のに市民の税金使うな＞
　今回の辞職・出直し選挙は、橋下市長自ら「選挙で勝っても議会構成は変わらない」「わがまま」と承知のうえの賭けである。
　しかも、市長選挙にかかる費用は約６億円に上るという。賭けといっても、賭け金は市民の税金である。自分の「わがまま」を通すために市の予算を使おうというのに、「自分のケツは自分で拭く」というのは、勘違いもはなはだしい。
　橋下氏が補助金をカットした国立文楽劇場への補助金は3,900万円（満額）。市長選挙の費用は、その15倍だ。補助金をカットする際、橋下氏は有料入場者数の目標を達成できなかった事実を指摘し、「目標設定なので、残念だが減額だ」と宣告した。「自分のケツは自分で拭く」というなら、法定協議会で合意できなかった事実を受け止めて、「残念だが、大阪都構想の議論は継続だ」というのがスジである。

※記事へのご意見はこちら