福岡市の「グローバル・スタートアップ国家戦略特区構想」が実現に向けて大詰めを迎えている。政府が今月中旬にも指定する国家戦略特区の選定作業が行なわれている。福岡市が特区構想のなかで雇用の規制緩和を掲げていることに、批判の声も多い。NET-IBでは2月10日の記事(「高島市長、自民党へご機嫌伺い」)で解雇規制緩和の問題を報じたが、福岡市の指定が有力になったことで、あらためて問題点を取り上げる。
福岡市が構想している「グローバル・スタートアップ国家戦略特区構想」は、法人税の減免とともに、雇用条件の明確化を行なうことで企業誘致を進めるとしている。この雇用条件の明確化が問題だ。外国人の在留資格要件緩和が含まれているが、それだけにとどまらない。
福岡市の特区構想で打ち出されている雇用条件の明確化とはどのようなものか。2013年12月13日の福岡市議会一般質問で、日本共産党の綿貫英彦市議がそれについて取り上げている。
「市長自身が新たなブラック企業を生み出そうとしている問題について質問します。
本市は、ことしの9月11日、国に新たな起業と雇用を生み出すグローバル・スタートアップ国家戦略特区なる提案をしております。その中で解雇規制の緩和とありますが、提案の目的と内容について説明を求めます。」
永渕英洋経済観光文化局長の答弁は次の通り。
「福岡市は、開業率が政令市でトップであり、また、創業年数の短い、若い企業が雇用を多く創出しているとの調査結果もあるため、雇用を生む新たな企業を生み出す、いわゆるスタートアップを支援することを目的として、創業間もない期間に限り解雇規制の緩和や法人税の減免を提案しているところでございます。
解雇規制の緩和につきましては、労働基準監督署による監視体制の強化を図りながら、国でも検討されていた解雇ルールを明確にする事前型の金銭解決制度などを創業後の5年間に限り導入することで、正社員の雇用を促進することを提案しているものでございます。」
<高島市長の頼みの綱は麻生太郎氏>
政府は、全国に3~5カ所の戦略特区を指定することを明らかにしていたが、これまで東京や大阪といった大都市が有力視されてきた。福岡市が急浮上したのは、「完成度が高い」という理由であり、2月7日に自民党本部で行われた日本経済再生本部と起業大国推進グループ合同会議の会合で、高島宗一郎市長がプレゼンテーションを行ない、出席者の自民党議員に好評であったことが、大いに関係していると思われる。
高島市長にとって今年11月の市長選挙を考えると、与党会派とりわけ自民党の支持・応援が不可欠である。フェイスブックへの水着姿の投稿や中央保育園の移転問題などで、市長の資質が疑われ、市長の交代を望む声が広がるなか、頼みの綱は、自民党の麻生太郎氏である。
もっとも、安倍政権の進める新自由主義的政策は、当の自民党議員や保守層からも評判が悪い。小泉政権時の規制緩和の行き過ぎが、非正規雇用の不安定な就労を生み出し、若者の将来への不安を増大させた。竹中平蔵氏らの産業競争力会議は、再びそれを進めようとしている。偽装請負や派遣村が話題となり、「生活が第一」を掲げた民主党への政権交代につながったことを考えると、さすがの自民党も手放しでその政策に賛同するわけにはいかないだろう。
福岡市は、その若い世代が多く暮らす街だ。市内数カ所にあるハローワークは、朝から若者に限らず仕事を探す人であふれている。福岡市が、雇用の規制を緩和する国家戦略特区に指定されれば、ますます不安定な就労が増えかねない。高島市長はそのようなものを率先推進するというのだから呆れるばかりだ。
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