近年、デジタル技術が格段に進化を遂げ、商品やサービスの販売戦略も多様化が著しい。そのため、企業も自らのアイディアやサービスのブランド化に際し、文字や図形といった従来型の商標に囚われず、これまで試みられなかった「動き」や「輪郭のない色彩」、そして「音」や「位置」という非伝統的商標も用いるようになってきた。
我が国では、ヨーロッパでも登録が完了した久光製薬の「ヒサミツー」の音楽コマーシャルが有名だ。位置商標というのは、サンフォード社の筆記用具の特定の位置に付けられている赤い輪であったり、プラダ社の靴の踵部分に付けられた赤い線などがすでに登録されている。
すでに、ニオイに関してはアメリカや韓国においては商標の対象になっている。ヨーロッパにおいても、同様の動きが見られる。人間の嗅覚には、まだまだ開発の可能性が秘められていると思われる。というのは、人類には本来、1万種類以上のニオイを嗅ぎ分ける能力が備わっているはずだからである。しかし、文明の進化とともに、本来、人間が持っていた野生動物としての嗅覚は徐々に退化してしまい、現代人にはそれだけ多様なニオイを嗅ぎ分ける能力は残っていない。
とはいえ、我が国には古来より、『香道』という香りの違いを嗅ぎ分けて楽しむという伝統的な文化が存在している。そうした観点からすれば、今、世界的な潮流になりつつあるニオイの商標化という動きに対して、日本としての独自のアプローチが可能ではないかと期待が高まる所以であろう。
日本人は、世界に冠たる健康長寿国を標榜しているが、その源とも言われる食生活1つをとっても、このニオイ成分を活用することで、一層のバージョンアップが可能になると思われる。
なぜなら、人間の細胞を活性化するという観点で、医療や健康、病気の予防にとっても嗅覚を通じたニオイ成分をどのように活かすか、ということは古くて新しい研究テーマだとみなされているからである。単に安心・安全な、そして四季折々の自然からの恵みを食として体内に取り入れるだけでなく、日本が世界に先駆けてこうした香り成分、言い換えれば香りのエッセンスを細胞の活性化に結びつけることで、新たな産業が生まれる可能性があるわけだ。
そうなれば、こうした香りのエッセンスを特許、あるいは商標化していくということも、日本らしい特許戦略の一翼を担うものに進化するだろう。
さらには、世界的な商標法を取り巻く動きのなかでは、色や音や香りに加え、動きとかホログラムなども保護対象に加えようとする動きもあり、注目に値する。感触や味、トレードドレスも商標になりつつある。たとえば、アメリカではワインのボトルの表面の触り心地が商標登録されている。トレードドレスとは、レストランや店舗の内装や外観をまとめて登録するもの。まさに地殻変動の時代と言えよう。
商標登録をしようとする者にとっては、こうした新たな商標の内容や権利の範囲といったものをきちんと把握、認識しておく必要があろう。その意味でも、新しい商標の登録出願に際しては、その中身を明確化することや、ホームページ等で容易に新商品に関する出願や登録の状況が確認できるような仕組みが求められている。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
※記事へのご意見はこちら