しかし、日本の場合は他の国々と比べ、子どもを産まない女性の比率が極端に高いという点で、突出している。子どもを産まない家庭が多いことで知られる旧西ドイツと比べても、この日本の数字は異常である。現在、我が国では女性4人に1人は生涯子どもを産まない。草食系男子に問題があることは否めないが、結婚願望の対極とも言える「結婚回避願望」が日本人女性の間で広がりつつあるのは、世界でも稀な現象だと思う。
1965年から2005年の間に、30代の女性で一度も結婚しなかった人の比率は6%から18%に増えている。実は、男性の未婚率の方がもっと急激な伸びを見せており、同じ間で4%から30%になっているから驚く。当然のことながら、結婚の数も3分の1にまで減少している。1970年と2010年を比べると、20歳から50歳までの人口はさほど変わっていない。最大の違いは、結婚している日本人の数が1,000万人も減っていることだ。
結婚なくして人口の維持も増加も期待できない。結婚を可能にするには、経済活性化による雇用の確保が何にもまして優先されねばならない。なぜなら結婚や出産、子育てに否定的な最大の理由が、「経済的な余裕のなさ」にあるからだ。
内閣府が11年にまとめた「少子化社会に関する国際意識調査」の結果からも、日本の独身男女20歳から49歳までが、結婚や子育てについてどのような意識を抱いているかを読み解くことができる。未婚の人に「現在、結婚していない理由」を尋ねたところ、我が国で最も多い回答は、「適当な相手にまだ巡り合わないから」が47.2%であった。次に高い回答は「経済的に余裕がないから」というもので29.8%。
「自分の子どもを持つこと」に対して、どのような考えを持っているかと尋ねたところ、日本では「子どもがいると生活が楽しく豊かになる」との回答が62.7%で最も高く、以前に最も多かった「子どもを持つことは自然なことである」との回答を上回った。日本の男性、女性とも「子どもを増やしたくない理由」としては、前回の調査同様、「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」という回答が最も多かった。また、「働きながら子育てできる職場環境がない」とか、「雇用が安定しないから」という回答も多く、とくに女性からはこうした回答が高かった。
子どものいる人や子育ての経験のある人に、「子どもに関する支出をどのように受け止めているか」を聞いたところ、「重く感じる」と「ある程度重く感じる」の合計は37.6%。そして「子育てに掛かる経済的負担として大きいものは何か」と聞いたところ、日本では「学習塾など、学校以外の費用」が36.5%で最も高かった。
各国比較で見ると、韓国の「学習塾など学校以外の教育費」が71.7%と際立って高い。一方、アメリカやフランス、スウェーデンでは教育費ではなく、「衣服費」の負担が最も高くなっている。
「自分の国が子どもを産み育てやすい国かと思うか」と聞いたところ、「そう思う」という回答はスウェーデンが最も高く97.1%。次いでアメリカの75.5%。そしてフランスの72.0%であった。ところが日本では52.6%。多くの日本人が出産や子育てに不満を抱いていることがうかがえる。
結婚を希望する人に「結婚を支援する施策として何が重要か」と聞いたところ、日本では「雇用対策を強化し、安定した雇用機会を提供すること」が50.5%で最も高く、前回調査の35.5%より15.0%も上昇していた。
こうした調査結果から言えることは、我が国の少子化対策の方向性としては、皆が結婚できる平等な社会を目指す、ということではなく、希望する者が若い時期に結婚することができるように支えていくという点が、重要であることがわかる。
我が国の若年層の家族形成を阻む要因の最大のものが、彼らの経済基盤が弱いことである。結婚生活に必要な月収について尋ねたところ、32万7,000円であった。これは韓国の37万2,000円、アメリカの50万9,000円、スウェーデンの39万9,000円、フランスの35万円と比べて、最も低い金額である。裏を返せば、夫婦で働いても、32万7,000円という金額を得ることが難しいという現実の厳しさが浮き彫りになっている。
他方、法務省社会保障審議会が2010年にまとめた「人口構造の変化に関する特別部会資料」によると、少子化対策等を行なうことによって、希望がすべて実現した場合、若年層の9割が結婚し、合計特殊出生率は1.75まで回復するという試算が提示されている。
しかし、出生率が回復したフランスやスウェーデンにおいてすら、40代における既婚、同棲経験率を見ると、フランスでは男性40代で81.1%、女性40代で87.0%、スウェーデンでは男性40代で87.4%、女性40代の場合が83.3%で、いずれも9割までは達していない。
これら両国では我が国よりも手厚い子育て支援を行なっているため、カップル形成の障壁は我が国よりはるかに低いはず。結婚あるいは同棲するかしないかは、本人の選択に任されるのが先進諸国の常態であろう。こうした条件を考慮しても、ある程度はカップル形成をしない層は存在するのである。このような海外の事例を踏まえると、今後、我が国がフランスやスウェーデンのように、子育て支援策を拡充させたとしても、国民の9割以上が結婚していたような社会に戻る可能性はほぼありえない。
子育て経験のある日本の男女の間では、「子育てを楽しい」と感じる割合は微増傾向を示しているにもかかわらず、そうした意識の改善が子どものいない男女に浸透していないのである。「イクメン」ブームが話題となっているものの、子どものいない日本の男女の子育ての楽しさに関する意識は、悲観的で、今後も変化の兆しは感じられない。彼らは子育てがもたらす精神的な疲れを過度な負担と感じ、その重荷感が増大している。これは日本に特徴的に見られる現象である。
こうした事態を打開するには、子育ての不安を取り除く制度的工夫が欠かせない。保育費や教育費の負担を減らし、子育てが大変だ、との重荷感を軽減させる必要もあるだろう。その意味で、家庭外保育サービスの選択肢を増やすことも検討に値する。フランスで成功している事例だが、学生などによる安価なベビーシッター制度の拡大や、保育時間の融通が利く、親が共同で運営する「親保育所」なども参考になる。
アベノミクスの「第3の矢」として期待されている成長産業のなかに、こうした雇用拡大と人口対策を組み込む発想が求められる。日本の未来に責任を持とうとすれば、人口減少という「静かな津波」に対する防潮堤としての新産業の育成が欠かせない。と同時に、意欲と技術を持つ移民の受け入れと受け皿としての地域社会の活性化策を組み合わせた、日本の内なる国際化戦略が求められる。
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<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
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