<「チャイナマジック」に魅せられて」>
1990年代、初めて中国を訪れた時、北京の故宮で偶然会った初老の日本人旅行者と話をする機会があった。「中国に来るのは、22回目になります」「何と22回も来たんですか!」。その回数の多さに驚愕した覚えがある。旅行をしている最中は、「もうこんな国、2度と来るか」と思うのだが、日本に帰ってしばらくすると、その強い磁力に引き寄せられ、また来たくなる。中国旅行が好きな人たちの間では、「チャイナマジック」と呼ばれる。
初めて中国を旅行してから十数年。あの時、故宮で驚愕した訪中22回という数字に、近づきつつある。
「瘋癲(フーテン)を極める雲南省」というタイトルで原稿を書けと言われた。
中国の国土は日本の26倍もある。まだ"極める"までにはほど遠いので、"漂泊"と題した。しかし、確かに瘋癲に近いのかもしれない。フーテンという字をよく見れば、病ダレが2つ連なる。何かの病に、取りつかれたように、雲南省へと旅に出た。なぜ、雲南省かと聞かれると、たまたま昆明への飛行機が安かったからだ。ガイドブックにはあまり載っていないマイナー都市を巡った。
<中小都市を放浪>
中国から東南アジアへの入り口として注目されている雲南省。2000年以降、江沢民総書記が提唱し、胡錦涛政権も受け継いだ「西部大開発」政策によりインフラ整備、観光地への投資が入り、このところ経済発展を遂げている。
北京、上海などの大都市では物価が上がり、旅行者としての"割安感""お得感"は年々、下がってきている。中国では、10年前ぐらいまでは、大都市でもホテル代や食事代も安かったが、いまや、航空券代を除けば、日本国内を旅行する方が安上がりなぐらいだ。
雲南省に行けば、そんなことはあるまい。6年前の値段で、ホテルが最安値で10元。食事代は約5元。仕事のスケジュールに"空き"ができた僕は、漂泊の思いに駆られ、上海経由で昆明へ。旅行者にとっての"割安感"を探して、雲南省のマイナー都市、丘北~普者黒~文山~馬関~天保~河口。国境を渡って、ベトナム・バックハー~サパを巡った。
コストパフォーマンスの極致を探して、気の向くままバスに乗ったが、待っていたのは、観光業界を取り巻く物価高と、雲南省~東南アジア名物の下痢だった。
(つづく)
【岩下 昌弘】
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