「戦後70年談話」、韓米日の学者の分析(後)
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目を曇らせるメディアの自縄自縛
次はフォーサイト(新潮社)に掲載された、在米日本人学者による「日本は右傾化しているのか」という論考だ。武内宏樹サザンメソジスト大学(SMU)政治学部准教授は、まっとうな考えを提示していると思う。彼は1973年生まれ。文中に紹介された「日本に平和主義はなかった」という米国人学者の指摘も重要だ。もちろん、これは言葉の定義によるのだが、彼のように議論の前提になっていることを疑ってみる姿勢が必要だ。
「日本の右傾化」という問いそのものにはあまり意味はない。日本右傾化の根拠は、「右寄りの安倍晋三氏が首相になったのであるから安倍氏を選んだ日本国民も右傾化しているに違いない」というものである。しかし、2012年衆議院選挙での自民党の勝利は、いうまでもなく、それまで政権を担っていた民主党への、とくにその経済政策に対する失望によるものであり、安倍氏の右寄りの政治的立場が支持されたからでは決してない。2014年の衆議院選挙でもその傾向は変わらなかったといってよい。
7月20日付のウォールストリート・ジャーナル紙に国際政治学者のジェニファー・リンド氏(ダートマス大学准教授)が寄稿し、「日本が平和主義を希求したことは実は一度もない」という論陣を張り、注目を集めた。リンド氏に言わせれば、「戦後日本の安全保障戦略は常に、防衛においてまず米国に頼れるところは頼り、必要に応じて足りない部分を日本が担う」という形で展開されてきたのであり、今回の安保法制もその延長線上にあるという。
最近の日本の新聞社は、固定した「メディアフレーム」にがんじがらめになって、柔軟な現状分析ができなくなる現象が目立つ。自縄自縛。最近の例で言えば、朝日新聞の「慰安婦報道」がそうだった。私は「アジア時報」「正論」でこの点を指摘した。「キャンペーン報道の陥穽」は、常にマスコミには存在する。
最近、偶然に再会したソウル特派員時代の友人が、大手メディア社長になっていて驚いた。私の小冊子「私のコリア報道」や「正論」のコピーを送ったら、謝礼のメールが届いた。それによると、昨年の新聞大会では神戸新聞社長が「記者は正義感に燃えた時ほど、バイアスの落とし穴にはまる」と警鐘を鳴らしていたという。安保法制論議でも、「戦争反対」という正義の「メディアフレーム」が、事実を見る目を曇らせているのではないか。彼の自省の念に、同感する部分が少なくない。
日本メディアと韓国が続けるブレイムゲーム
最後は、北岡伸一・国際大学教授(東京大学名誉教授)だ。私は同氏については、とくに国連次席大使当時の言動から、あまり良い印象を持っていない。安倍政権で重用されていることにも、斜め目線で眺めている。しかし、「ダイヤモンド社書籍オンライン」のインタビューでは、良いことを言っている。
戦犯を裁いて領土を引き直し、賠償金を払うあるいは賠償放棄をすれば、通常、戦争は終わりです。それでもなおブレイムゲームを続けるのは、本当にやめてほしい。ただ、中国はやめる可能性があると思います。やめないかもしれないのは、日本のメディアと韓国です。仮に中国がこの辺りでいいかと思っても、朝日新聞がわあっと文句を言うと、それに影響される可能性がある。
中国、韓国に限らず、日本でも一番困ってしまうのは偏狭な人です。現在の状況を保守化というのはどうかという議論があったとき、私は「保守というのは礼儀正しくなければならない。言葉遣いが汚い保守はよくない」と言いました。桜田淳氏が、産經新聞の「正論」に「私は天皇陛下の前で使わない言葉は使いたくない」と書いていましたが、それと同じです。ネット右翼を見ると、汚らしい言葉を並べて、それはもうひどいでものです。ネットだけではなく、雑誌でもひどい。
「私は天皇陛下の前で使わない言葉は使いたくない」――産経新聞にそう書いたという櫻田淳氏の言葉は、保守の真骨頂である。
(了)
【下川 正晴】<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連記事
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