訪韓メモ、韓国現代社会を解くキーワード(後)
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「テロリスト」論争
「上海天長節爆弾事件」をめぐって、韓国内で2007年に若干の論争があったことが、訪韓中に購入した康俊晩(カン・ジュンマン)の「韓国現代史散策」第8巻を読んでわかった。著者は、あけすけな記述で定評がある大学教授だ。
問題提起したのは、ロシアから韓国国籍に帰化した朴露子(パク・ノジャ)氏。外国人の目から、韓国史に関して大胆な発言をしている歴史研究者だ。彼は同年4月、この爆弾事件で「日本の民間人に数名の被害者が出たのに、侵略元凶の爆殺と負傷を喜んだ中国の世論は、これを認識しなかった」と指摘。南朝鮮労働党の指導者だった朴憲泳(パク・ホニョン)が、犯人・尹奉吉(ユン・ボンギル)の行動を「ごく少数の暴力による運動は必ず敗北する」と批判したことを紹介。「最高のパルチザン大将(金日成のこと)が結局、最悪の独裁者に変身した韓半島の現代史を念頭に置くべきだ」(「ハンギョレ21」)と述べた。
これに対して、韓国右派の代表的論客である慎鏞厦(シン・ヨンハ)氏(ソウル大教授)が、「大韓民国臨時政府による特攻隊攻撃をテロと言うのは、歪曲であり誤解だ」(「朝鮮日報」)と反論した。彼が「特攻隊」を賛美しているのが、僕にはおかしかった。
別の本には、1980年代後半、政権与党だった民自党内の民正党系の代表人物だった朴泰俊(パク・テジュン)氏(浦項製鉄会長)が、桜田門事件のイ・ボンチャン記念事業の会長であり、これに対して民主党系のトップだった金泳三(キム・ヨンサム)氏(後に大統領)が、ユン・ボンギル記念事業会の会長を引き受けたという指摘があった。「なるほどね、だから、あんな無神経な展示内容になっているのか」――と、当時の政治状況を知る僕は、今さらながら思い知った。
金鍾泌(キム・ジョンピル)
知っている日本人は少なくなった。韓国の元首相の朴正煕(パク・チョンヒ)とともに、軍事クーデターを起こした。89歳。不倒翁。彼が「中央日報」で連載した自伝を評価する韓国人の声を聞いた。「今の韓国を作ったプランナー」という評価だ。別の信用できる韓国人は「時々読んで来た」とだけ言った。
僕は残念ながら、金鍾泌氏と長時間話したことがない。ただ1つ、忘れがたい記憶がある。金泳三(キム・ヨンサム)政権がスタートした頃、毎日新聞の夕刊コラムに、「韓国は人治社会だ。法治社会ではない」と書いた。彼が大統領になった途端、野党時代には未解決だった刑事事件が、たちまち解決したからだ。
僕のコラムを読んだJP(金鍾泌の愛称)は、出入りの韓国人記者に「毎日新聞の特派員が、こんなことを書いているよ」と紹介した。それが韓国紙の政治面に載った。JPとしては、YS(金泳三)に対する牽制球だったのだろう。国会で僕の記事が引用される騒ぎになり、少し迷惑した。「人治の韓国。法治社会ではない」。今ではマンネリになった批評だが、当時は中国に対して使われる用語で、韓国に対しては「情の社会」(黒田勝弘さん)という言い方が一般的だった。黒田さんほど韓国に対する愛情がない(笑)僕は、ストレートに表現した。
朴正煕の娘は、韓国を日本から遠くに連れて行った。生き残ったJPは、今、「韓国の将来」をどう思っているのか?
(了)
【下川 正晴】<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp関連記事
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