2024年12月23日( 月 )

韓国経済ウォッチ~TPPと韓国経済(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

TPPの歩みと影響

貿易イメージ 「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」は、2005年6月に4カ国でスタートを切ったが、最初の頃はあまり注目を受けることがなかった。しかし、08年にアメリカがTPPに参加することになってから、世界の関心を集めるようになった。さらに13年7月、日本が参加を表明することによって、もっと注目を浴びるようになった。アメリカと日本は2国で、TPP参加12カ国のGDPの8割を占めているほど、参加のインパクトあるからだ。
 しかし、TPPは交渉の過程で、各国の利害が鋭く対立し、合意に至るまでの道のりは、平坦だったわけではない。また国内的にはTPPに対する否定的な意見も多く、いまだに各国で全体のコンセンサスがとれていると言える状況ではない。今回妥結できないと、妥結は難しいかもしれないと判断した各国政府は、粘りに粘ってアメリカの譲歩を導き出し、10月5日に大筋合意に至ったのだ。

 それではTPPは今後、韓国の経済にどのような影響をおよぼすだろうか。TPP参加12カ国の国内総生産(GDP)を合計すると、全世界GDPの38%に達する26兆6,000万ドルになる。この数字は、EU全体(23%)より大きい経済規模であるし、東アジア地域包括的経済連携(RECP)19兆9,000万ドルよりも経済規模が大きい。世界で最も大きな経済ブロックが誕生したことになる。TPPは域内から見れば自由貿易圏だが、域外から見ればブロック経済圏ということになる。域外と域内の取引は非常に不利であり、どこの国でもこの枠組みから外れてしまうと、さらに大きな経済的損失を被ることになる。

 このような巨大なブロック経済圏が誕生すると、そのなかで行われる自由貿易の影響力は想像を絶することになるだろう。韓国の対外経済政策研究所(KIEP)によると、韓国がTPPに参加することになった場合、発効後10年目に2.5~2.6%の実質GDPの増加が予想されるとなっている。しかし、TPPに参加しない場合では、10年後に0.11~0.19%の実質GDPの減少が見込まれるようだ。具体的には、域内では関税が撤廃または引き下げられ、貿易条件が良くなるため、貿易の規模が増加される。これと同時に非関税障壁が緩和され、通関手続きも簡素化される。これによって、投資とサービスも活性化するだけでなく、新しいルールづくりにも参加できるようになる。

 TPPは関税撤廃などを前提にした強力な貿易協定であるため、韓国経済におよぼす波及効果は少なくないことが予想される。
 では業種別には、どのような影響があるかを見てみよう。
 電子産業の場合、日本製のテレビなど電子製品の価格競争力が上がる要因もあるが、携帯電話などの韓国の主力品目の場合、情報技術協定(ITA)により今現在も関税がないため、TPPの影響はそれほど受けないだろう。
 韓国の主要輸出業種である鉄鋼は、アメリカ市場で日本製品と直接的な競合関係になっていないため、影響は限定的である。
 建材などは中国企業と主に競合しているため、この業種にもあまり影響はなさそうだ。
 韓国はTPP参加12カ国のなかで 10カ国とはすでに協定を結んでいる。韓国の輸出のなかでTPP参加国の比重を見ると、米国が一番高く、日本、シンガポール、ベトナムの順である。昨年基準で、TPP圏域は韓国輸出の32.4%を占めていると、韓国貿易協会の統計は明らかにしている。

TPPの政治外交的な側面
 中国は、16カ国が参加している「東南アジア地域包括的経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)」に積極的になっていて、RCEPと日・中・韓FTAなどを通じて、中国を中心にした自由貿易構想を進めてきた。TPPは、このような中国中心の経済統合をけん制するためのアメリカの戦略であると言える。
 そのため韓国は、今現在の最大貿易相手国であり、最大の黒字を出している中国との関係を考慮して、TPP参加には慎重を期さないといけない立場でもある。

TPPのメリットとデメリット

 それでは最後に、TPPの韓国経済へのメリットとデメリットを整理すると、次のようになる。

<メリット>
(1)低成長に喘いでいる韓国経済に、新しい活力を与える起爆剤になり得る。
(2)鉄鋼、石油、繊維などの一部の製造業は、プラスになる。

<デメリット>
(1)農産物などは安い農産物が輸入されることによって、韓国の農業に大打撃を与える可能性が高い。
(2)日本との直接競争にさらされることになる自動車、素材部門では、相当な被害が予想される。
(3)アメリカから米、牛肉の解放の圧力が高くなる。
(4)解放政策によって、競争力の弱い業種はかなり打撃が予想される。

 TPPは世界の経済統合の始発点になり、すでに動き始めた。これにどのように対応していくのか、各国のスタンスの違いも出てくるだろう。貿易立国の韓国としては、遅ればせながら、参加へのより一層の対応が求められる。

(了)

 
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