2024年11月22日( 金 )

自主回収から4年、『茶のしずく』問題を振り返る(3)

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患者の半数が5年で「略治」

「市民公開講座」会場の様子<

「市民公開講座」会場の様子

 島根大学の千貫裕子氏は2,111人の患者のうち、経過観察できた350人の予後調査結果を発表。通常の食事をとる日常生活で3カ月以上、即時型アレルギー症状が出なかった場合は「略治」と定義し、「患者の半数が約5.4年で略治する」と推定した。

 千貫氏は治癒しにくい患者の存在も指摘し、「重篤な症状が出た患者や、血液検査でω-5グリアジン特異的IgEに陽性反応が出た患者は治癒しにくい傾向があった」と述べた。石けんの使用を中止することで、多くの患者はアレルギー症状が改善してきているとした。また、治癒しにくい患者のために、千貫氏らは抗IgE抗体製剤(オマリズマブ)を使用した臨床試験を実施。「オマリズマブはIgE抗体の結合を阻害する」とし、オマリズマブ摂取期間はアレルギー症状が発症せず、摂取をやめると症状が再発するという試験結果を報告した。今後、長期投与する予定としている。

 同臨床試験を受ける場合の費用は、NPO法人生活習慣病予防研究センターが管理する「加水分解コムギアレルギー救済基金」((株)悠香・(株)フェニックス・(株)片山化学工業研究所の寄付金5,000万円で設立)から捻出される。

 国立医薬品食品衛生研究所の手島玲子氏は、加水分解コムギの抗原解析で明らかになった点を解説した。「加水分解コムギ末(グルパール19S)は、コムギグルテンを酸で部分的に加水分解していたため、大きな分子量の物質が形成されたほか、処理工程で熱や酸に耐性がある抗原性の高い抗原決定基が産生されたと思われる。発症の作用機序は、目や鼻などの粘膜からグルパール19Sが吸収された後、体内でグルパール19Sの特異的IgE抗体が産生され、小麦食品の摂取後にその特異的抗体が小麦と交差反応したと考えられる」と述べた。

 『茶のしずく』石けんによる小麦アレルギー患者を初めて診察し、石けんとの因果関係を証明した国立病院機構相模原病院の福冨友馬氏は、加水分解コムギ末によるアレルギーの特徴を説明。通常のアレルギーは若年層から高齢者に多く、初期症状は全身のかゆみと蕁麻疹だが、加水分解コムギ末によるアレルギーは旧『茶のしずく』の使用歴がある20~50代が中心で、初期症状がまぶたや顔面のかゆみ・はれだったと報告した。

「完治」の診断は不可能

 市民公開講座終了後の記者会見で、特別委員会の松永佳世子委員長は「(特別委の解散後も)調査は安達玲子氏(国立衛研)による研究(食物アレルギーにおけるアレルゲン経皮感作のメカニズム解析およびマーカー分子の探索)に引き継がれる」と説明した。また、患者に完治した人がいるかとの質問に対し、「大量の小麦食品を食べた後、激しい運動を行っても何も起きなかった場合などは、完治と言える可能性があるが、実際には患者にそのような負担をかけるリスクは大きく、完治の診断は現実的にはできない」との見解を示した。

 講座に参加した『茶のしずく』訴訟の東京弁護団の宮城氏は、「(研究結果は)想定の範囲内。裁判に影響するものではないだろう」と話した。

(つづく)
【山本 剛資】

 
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