製品で「実用」先端、セミナーで「最」先端!(4)
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公立大学法人名桜大学名誉教授 清水 則之 氏
ネットワーク関連製品は現在飽和状態に
――「COMPUTEX Taipei 2015」ですが、先生のご専門分野のネットワークに関しては何か面白い話題はありましたか。
清水 今回、私は台北滞在中のスケジュールがかなりタイトで、万遍なくブースを回ったわけではありませんが、目新しいものはほとんどなかったように感じています。もちろん、大小各社、モデムやルーターなどに関しては新製品を陳列していました。もともとネットワークに関する製品というものは、ネットワークの規格に準じて生まれてくるものです。ところが、肝心のその規格は、今世界的に進んでいません。別の言い方をすれば、すでに進み過ぎているのです。その規格に関連する製品群に関しても、飽和状態の傾向にあります。新しいネットワークの規格ができない以上、この情況は続きます。
IoTを各会社がどのように考えているか
――主催者は今年のメインテーマとして「IoT(Internet of Tings)」と「モバイル・アプリケーション」、「クラウド・テクノロジーとサービス」の3つを挙げ、とくにIoTという言葉を強調していたように感じています。この点に関して、先生はどうご覧になりましたか。
清水 専門のネットワーク関連を除くと、駆け足で会場を回りましたので、コメントは難しいです。ただ、おっしゃる通り、製品の多くは「IoT(Internet of Tings)」関連というか、無理やりに関連づけているものが多かったと思います。今はこの言葉自体が1つのブームになっているので、当然とも言えます。IoTとはすべてのモノがインターネットにつながるという考え方ですが、間違いなくその方向に進んできています。しかし、それをビジネスとしてすぐに具現化できるかどうかについては、疑問を持っています。
私はIoTに関しては、2つのことを考えています。1つはこのような新しく注目されるものの動向を確実に探るには、製品を見ているだけではダメで、やはりセミナーや講演会に出る必要があります。IoTに関しては、今回は「IoT Applications and Connected Devices Technology Forum」というのがありました。そこでは、台湾のAcerやMediaTek、アメリカのSilicon Labs、Marvell Semiconductorなど各社の講演が行われています。そのような講演を聞くことによって、IoTに関して各会社がどのように考えているかを探ることができます。
IoTビジネスで成果を出すことの難しさ
2つ目は、IoTの本来持っている概念とIoTビジネスで成果を出すことの難しさ、その温度差です。日本だけを例にとって見ても、パナソニックでも、NECでも、富士通でも、日立でも、電池1つとってみても皆、形状やサイズが違います。
今日、USBの場合、5ボルト以下であれば、世界共通の規格ができました。そこで、その規格に合わせて各社が競争して良い製品を作り、そのできた製品の多くは広くマーケットに認知され、1番良いものがデファクトスタンダードになっていく可能性があります。IoTの場合、概念が大きすぎて、このような規格はまだ存在しません。
恐らく、その規格ができるまでは、各社は自分たちの製品群の中でバラバラに、つまり閉じられた市場でIoT化していくしか手立てがありません。もしかしたら、IoTと言う言葉は、意外に早く廃れて行くのではないかとさえ思います。インターネットはメールやサーバーだけではない
インターネットは、メールやサーバーにつなぐことがその利用価値の限界ではありません。それ以外のビジネスにも拡大していける可能性があることを世界に広く知らしめたIoTという概念は、とても重要です。しかし、それを無理やりに家電、携帯電話、携帯ゲームなどとつなぎ合わせようとするとどうしても、そこに無理が生じます。
IoTとは、すべてのモノが、Wi-Fiとかネットワークなどでつながっていくという考え方です。しかし、むしろ重要なのは、そのうえで何ができるのか、何をするのかということだと思います。PCなどは機能がどんどんアップデートしていくイメージは容易に浮かびます。しかし、洗濯機や掃除機などの家電が、本体はそのままで、機能がアップデートしていくイメージが浮かぶでしょうか。そんなに上手くいきません。とくに内部のモーターなど要素技術には寿命があります。さらに、家電も車と同じで、10年経っても、20年経っても動くようなものでも、メーカー側は、新しいものを売らなければ商売が成り立ちません。消費者も古いものより新しいものを好む傾向があります。
最後に、何よりも1番の大きな問題はセキュリティの問題です。もともと、インターネットは、軍事用で、しかもアメリカの国防総省関連の研究者などごく限られた者だけが使っていたものです。そのため、初めから、そこにはセキュリティの概念が存在していません。
(つづく)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
清水 則之(しみず のりゆき)
公立大学法人名桜大学名誉教授、エドノール・インスティチュート代表。早稲田大学理工学部卒業後、1971年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。IBMシステムセンター、IBM東京基礎研究所、IBMヨーロッパネットワーク研究所(ハイデルベルグ)、IBMパロアルト研究所(シリコンバレー)に勤務。在社時代は主に汎用コンピュータ導入前テスト、ネットワークプロトコルの研究、金融系ネットワークシステムの構築などに従事。2003年から2011年まで名桜大学教授・国際学群長。研究分野はネットワークプロトコル、ディスタンスラーニング、医療情報学。情報処理学会シニア会員。
著者・訳書として、『グループウェア』、『インターネット電話ツールキット』など多数。関連キーワード
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