2024年11月24日( 日 )

市民、女性、若者を覚醒させた採決強行!(5)

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法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏

国民を主権者でなくすための流れだと感じる

 ――今回の「安全保障関連法案」もそうですが、「秘密保護法」、「マイナンバー法」も含めて安倍政権は、どんどん「戦争ができる国」へ歩みを進めているように感じます。先生はこの一連の動きをどのようにご覧になっていますか。

 伊藤 「戦争ができる国」へ歩みを進めている点は確かだと思います。しかし、私はこの一連の動きは、基本的には、国民を主権者でなくすための流れだと感じています。自立した「主体」としての国民を、統治の支配の「客体」としていく戦略が進行中です。官僚、政治家にとって見れば、国民が支配の客体であり、従順でものを言わないことが理想です。秘密保護法もマイナンバー法もそのための典型的な道具です。それは(1)国民には情報を渡さない(秘密保護法)(2)国民をコントロールする情報は自分たちだけが握る(マイナンバー法)、ようにして、国民が主体的に動けないようにすることが可能になるからです。

「自浄作用」がまったく働かなくなっている

 ――「安全保障関連法案」も大問題ですが、同時並行的にもっとすごい戦略も進行しているのですね。

法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏<

法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏

 伊藤 いまだかってないことだと思います。それは、現在の政治の世界では自民党の中でも、このような誤った戦略に疑問を投げかける、「自浄作用」がまったく働かなくなっているからです。以前はこのような誤った戦略が進行する際は、自民党も多様性があり、自浄作用も多少働きました。一方、野党も万年野党と言われながらも、一定の自浄作用の役割を果たしてきました。

 しかし、その中で、この誤った戦略を、理論ではなく、肌で感じ、行動を起こしているのが、今国会をとり囲んでいる市民、女性、若者で、大きな期待を持っています。これから18歳以上の若者が選挙に参加してくることになります。当然そのために、学校、社会で様々な教育が行われていくと思います。学校の「道徳教育」など、必ずしも適切な教育は行われないかも知れません。またそのことを心配されている見識者の方も多くいます。

 しかし、私はたとえどのような教育が行われるにしても、それは考え方次第で、若者が政治に関わるチャンスだと考えています。教育は学校だけではありませんし、親と話す機会とか、コミュニティの中でも話題に出るかもしれません。自分の頭で、しっかり考えることができさえすれば、いい方向に導いていくことは充分可能と考えています。
 その時に忘れて欲しくないのは、自分と意見の違うものを排斥するのではなく、そこに妥協点を見つける努力をすることだと思います。

「改正なのか、改悪なのか」を判断できる力を持つ

 ――この一連の流れの最終目的地として「日本国憲法改正」があり、2016年に与党における発議が準備されています。先生はこの点についてはどうお考えになっていますか。

 伊藤 私は、「憲法改正は賛成、憲法改悪は反対」という立場をとっています、憲法も法ですし、我々市民が作った道具に過ぎません、市民が賛成してより良いものができるのであれば、全く問題はありません。
 しかし、市民自身が「改正なのか、改悪なのか」を判断できるだけの力を持たないといけません。そのためには憲法を知る、立憲主義をよく理解することが重要です。「憲法改正は魔法の杖ではありません」。さきほど、申し上げましたように、「その国の憲法のレベルは、その国の国民のレベル以上には成りえない」からです。

 私は個人的には、今の憲法でどうしても変えなければいけないところがあるとは思っていません。又自民党の憲法改正案は、国民を巻き込みながら、集団的自衛権の行使という名の下に、戦争が可能な国を目指すものと理解しています。
しかし、私はそういう議論が起こるだけでも、国民が憲法を学ぶキッカケになるので、日本の民主主義においては一歩前進とも考えています。

議論は、極めて具体的なものでなければいけない

 その際注意しなければいけないのは、議論が「よりよい憲法にしましょう」という抽象
論に終始しないことです。10人いれば10人とも理想の憲法は違います。憲法改正の議論は、極めて具体的なものでなければいけません。今の憲法でどこが不都合なのか。仮に不都合の場合、法律改正ではダメなのか等ピンポイントで議論できないといけません。

 例えば、「現実に即して、憲法を改正せよ」という人もいます。しかし、約70年間平和で在り続けた現実に比べれば、そのような主張は仮定や憶測に基づくことが多いのです。

 今の議論に「押しつけられた憲法」という漠然とした議論があります。しかし、「押しつけられたが、しっかりと主権者である国民の人権と自由が保障されている憲法」と「自主憲法であるが、主権者である国民の人権と自由が阻害されている憲法」とどちらがいいかと、問われた場合、国民のほとんどが、前者を選ぶのではないでしょうか。要は全て具体的な内容が問題なのです。

声を上げている人に、少しだけ耳を傾けて欲しい

 ――なるほど、全てピンポイントで、国民が自分の生活に照らし合わせて考えて行く必要があるのですね。最後になりました。読者にメッセージを頂けますか。

 伊藤 「安全保障関連法案」も「秘密保護法」、「マイナンバー法」もそうですが、抽象的な議論でなく、国民が1人1人、自分の生活に照らし合わせて、考え、議論をしていく必要があります。

 今、多くの市民、女性、若者がそのようにしっかり捉え行動を起こしています。日本の
「民主主義」の夜明けを感じています。しかし、読者の中には、生活、仕事等それぞれの事情で、声を上げることができない、行動を起こすことができない方も多くおられると思います。そのような読者の方に1つだけお願いがあります。もし、自分が声を上げられなくても、声を上げている人に、少しだけ耳を傾けて欲しいのです。

 「確かにそうだ」とか、「そんな考え方もあるのか」とかを、感じて欲しいのです。耳を塞ぐのではなく、傾けて頂くだけで、次回の選挙であなたの1票はより輝くものになるはずです。国民の全ての有権者には1票という強力な武器があります。その武器を有効に使って、みなさんと、国民主権が守られ、「平和」と「自由」に溢れる日本を作っていけたらと考えています。

 ――本日は、朝早くからお時間を頂き、ありがとうございました。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
itou_pr伊藤真氏(いとう・まこと)弁護士(日弁連憲法問題対策本部副本部長)
 1958年生まれ。1981年東京大学在学中に司法試験合格。1995年「伊藤真の司法試験塾」(現「伊藤塾」)を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。法学館憲法研究所所長。立憲主義の破壊に反対する『国民安保法制懇』の設立(2014年)メンバー。
著書として、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)、『けんぽうのえほん あなたこそたからもの』(大月書店)など多数。

 

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