2024年11月14日( 木 )

世界史に名を刻むチャンスをフイにした安倍首相・戦後70年談話(1)

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副島国家戦略研究所(SNSI)中田 安彦 氏

hinomaru1 安倍晋三首相が14日夕方に閣議決定した「戦後70年談話」(安倍談話)の世論の受けはまあまあ好調のようだ。共同通信の緊急電話世論調査(14,15日実施)では、首相談話を「評価する」との回答は44.2%、「評価しない」は37.0%だった。安保法制の審議が始まって以来、周辺の国会議員の問題発言や、閣僚のちぐはぐな答弁などが影響して、ガタ落ちだった支持率も43.2%で、前回7月の37.7%から5.5ポイント上昇した(不支持率は46.4%)。

 海外のメディアの報道は欧米メディアでも、談話は「謝罪には至らず」(ワシントン・ポストやウォール・ストリート・ジャーナルなど)と論評するものが多く、中には、安倍首相の政治姿勢に共鳴する保守系の「日本会議」などの保守派の圧力ロビーの影を指摘するものもあった。一人称で戦争責任に対するお詫びが述べられた過去の村山談話、小泉談話と異なり、今回の安倍談話は「過去の内閣の姿勢の継承と未来志向」という形でだされたものだから、そういう論評になるのだろう。安倍首相がどのように考えているのかということは書かれていなかったのだ。

 それでもアメリカ政府の反応は上々で、オバマ政権のホワイトハウスにある国家安全保障会議(NSC)のプライス報道官は「戦後70年間、日本は平和や民主主義、法の支配に対する揺るぎない献身を行動で示しており、すべての国の模範だ」とかなりの高評価で、「安倍首相が、大戦中に日本が引き起こした苦しみに対して痛惜の念を示したことや、歴代内閣の立場を踏襲したことを歓迎する」と述べたと報道されている。日本のニュース番組は個人的には不満を示した元対日政策担当者とのことだが、オバマ政権としては歓迎のようだ。2013年年末に安倍首相が靖国神社参拝を断行した際に、米政府が「失望した」というコメントを出したことを考えれば大きくオバマ政権のスタンスは変わったのだ。

 私は、この談話の全文を最初に目にした時の印象は「随分と長い」というものだった。過去の二つの談話は、ステートメントという程度の短いものだったし、淡々と思いを述べたものだった。今回のものはどちらかと言えば「演説やスピーチ」に近い。それは日本語と同時発表された英語での談話を見るとその思いを強くする。談話の最後は安倍内閣が日本政府として今後の将来展望を述べる部分となっている。

 「歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく、アジア、そして世界の平和と繁栄に力を尽くす。その大きな責任があります」と述べたあと、安倍首相は「4つの決意」を述べる。その決意は、「紛争の平和的解決」(注:国際法である不戦条約に基づく平和主義)、「女性の尊厳の尊重」(注:女性活躍の政策)、「開かれた国際経済システムによる繁栄」(注:言うまでもなくTPP推進のこと)、そして「積極的平和主義による貢献」(注:今の安保法制を含む国際貢献のこと)である。

 重要なのは、その語り口調である。安倍談話は英語版では、4つの決意の冒頭をそれぞれ、「We will engrave in our hearts the past, when~」に統一しているのだ。このリフレインを駆使した語り口調はもはや「談話」というものではなくスピーチそのものである。アメリカではこのリフレインを多用した演説がよく用いられる。オバマ大統領は演説のフレーズに「Yes, We Can」を折り込んだことで話題になったし、古くは、キング牧師の「I have a dream(私には夢がある)」という演説などもそうだ。

 今回の安倍談話、日本語で読むと、かなり平板で読みづらいのだが、英語版はこのようにアメリカの政治家の演説のような仕掛けになっている。わかりやすいかでいえば、たしかにわかりやすい。耳に馴染みやすい。この談話はもともとが英文であって、それを日本語に訳しながら作成されたに違いない。このような談話は安倍首相一人でかけるわけがなく、安倍首相の訪米における議会演説も手がけた、谷口智彦・内閣審議官が中心になって国家戦略局(NSC)のメンバーである外務官僚上がりの兼原信克・内閣官房副長官補らと一緒に作成したのだろう。谷口氏はネオコン的な政策観の持ち主だが、それだけに安倍政権では随分と重用されているようだ。米大学やシンクタンクへの留学経験もある、政権の隠れスポークスマン的存在だ。

 だから、今回の安倍談話の「受け」はアメリカで良いのだ。この談話を日本語で読んでいては全くわからないだろう。この談話は英語使いが英語で書いたものを日本語に直したものだからだ。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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