2024年12月22日( 日 )

人手不足解消には若手と女性が安心できる産業へ(中)

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自分の首を絞めないために

 ――国が積極的に動いているとはいえ、まだ地方では危機感が薄いという話も聞きます。

蟹澤教授は建設産業の魅力を発信する「建設産業戦略的広報推進協議会」の顧問を務めている 蟹澤教授は建設産業の魅力を発信する
「建設産業戦略的広報推進協議会」の顧問を務めている

 蟹澤 保険未加入問題は、とくに首都圏など都市部で深刻な問題です。そのため、たしかに一般論として、「国の直轄工事をする大手企業にはだいぶ浸透してきたが、それにあまり関係ない地方は昔の体質のままだ」という言われ方をされています。
 ただ、地方にも二面性があります。危機感がない企業が多いという一方で、もともと社員化している企業もけっこうあると聞いています。
 そのためか、最近は社員化に成功している中小企業の事例もぽつぽつ聞くようになりました。要するに「技術力や品質で勝負だ」というとき、できるだけ社員として関わらせた方が良いに決まっています。そういうことをわかっているのは、概して若い経営者です。2世ではなく自分の代から起業した人もいますし、昔の親方ではなく、きちんと経営者として企業を運営している若手は、昔の人と感覚がまったく違います。
 そもそも国が率先してさまざまなことを始めたのは、建設業界を健全化しなければいけないという考えに基づいています。その背景として、ダンピング問題が最も大きいのです。私も「なぜ自ら首を絞めることをやっているのか。何かがおかしい」とずっと思っていました。この資本主義と自由経済のなかで、国が「利益率が低いから何とかしよう」と世話を焼く産業は、普通に考えればやはりおかしいのです。
 それを業界が問題だと思ってこなかったのは、下請以下に責任を押し付けていたからです。建設は、真面目にやっている人ほど損をする産業でした。昔から職人を社員化して休日をきちんと与えようとする企業はたくさんありましたが、彼らが得する構造では決してなかったのです。私の知り合いも含めて、そうした企業はたくさん倒産していきました。ようやく元請がきちんと利益を確保して法定福利費を出せるようになり、下請がきちんと保険に入れる道筋が見えてきました。
 よく「発注者の理解が得られない」と言いますが、そもそも建設業界から発注者に「そんな予算では職人にお金を払えません」とお願いしたような歴史は、今までにまったくなかったのです。今、国交省が他省庁、地方公共団体、民間のすべての発注者に対して一生懸命やってくれています。同省担当者に聞くと、「発注者は話せばきちんとわかってくれます」と話していました。
 デベロッパーは社会的責任のある企業としてコンプライアンスを求められていますし、職人が保険にすら入れないような金額で建物をつくっていたとわかれば、「知った以上は何とかしなければならないと考えています」と、その担当者は言われたそうです。ただ、「今までそんなことを言われたこともないし、これまで受注金額に保険のお金などは入っていると思っていた」というのが、これまでのデベロッパーの認識のようでした。
 「それは言い訳だ」という建設業界の人たちもいますが、「発注者さまには何も言えない」という空気が、この業界には蔓延しているのです。

(つづく)
【大根田 康介】

<プロフィール>
kanisawa_pr蟹澤 宏剛(かにさわ・ひろたけ)
1995年、千葉大学大学院自然科学研究科で博士号を取得後、財団法人国際技能振興財団に就職。その後、工学院大学、法政大学、ものつくり大学での講師経験を経て、2005年芝浦工業大学工学部建築工学科助教授に就任。09年、同大教授。国土交通省の建設産業戦略的広報推進協議会顧問、社会保険未加入対策推進協議会会長、担い手確保・育成検討会委員などを歴任。

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