2024年12月04日( 水 )

金融市場を混乱させるグローバル株安連鎖

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 NET-IBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、中国の人民元切下げを契機に金融市場に広がるグローバルな株安連鎖について触れた、8月22日付の記事を紹介する。


 中国の人民元切下げを契機にグローバルに金融市場の動揺が広がっている。
 中国の人民元は基本的に米ドルにリンクして変動してきた。このため、2012年夏以降の米ドル大幅上昇に連動して、人民元は他通貨に対して大幅に切り上がった。対日本円では1人民元=12円から1人民元=20円にまで人民元は急騰した。

 日本を訪問する中国人観光客にとって人民元高は福音である。1人民元で買える品物が、約2倍に急騰したのだ。日本で購入する商品やホテル代、交通費が、ほぼ半値になったということだ。このために、中国人観光客の日本での消費が爆発した。いわゆる「爆買い」と呼ばれる現象が広がったのだ。このことが、消費税増税で低迷する日本の消費市場を底支えする大きな要因になった。日本経済は、中国人消費によって底支えされたわけだ。

 しかし、このことは、中国経済にとっては大きな打撃になった。日本から見れば、中国製品の価格がほぼ2倍になったということだ。1人民元の商品を12円で買うことができたのに、これが20円になった。当然、中国製品を購入するメリットがなくなる。中国の輸出は強い下方圧力を受け始めた。
 為替レートの激動が各国経済に大きな影響をもたらす。短期的な影響においては、通貨の下落は輸出の増大を通じて、一国経済を底支えする要因になる。だから、経済が低迷する局面で、経済政策当局は、自国通貨を切り下げるインセンティブを有する。そして、国内経済を刺激する、あるいは、国内金融市場を安定化させるために用いられる金融緩和政策は、自国通貨を下落させる効果を併せ持つ。
 このため、経済が悪化し、金融市場が不安定になった国においては、金融緩和政策を強めて、経済を支えるとともに、自国通貨の下落を容認する傾向が強まるのである。

 2008年から2009年にかけて、世界の金融市場が震撼した。リーマンショックに象徴されるサブプライム金融危機が世界経済、世界金融市場を襲ったのである。この危機の震源地になったのは米国である。米国ではリーマンブラザーズが破綻して、金融恐慌の危険が足下に迫った。
 この危機にバーナンキ議長率いるFRBは徹底的な金融緩和政策で対応した。公的資金で金融機関の破綻の連鎖を食い止める荒業も併用した。危機に直面して超金融緩和と、自国通貨切下げで対応したのが米国だった。米ドルの下落の裏側は、日本円の上昇、ユーロの上昇だった。超金融緩和、自国通貨切下げの先頭を進んだのが米国だった。この政策対応によって、米国経済は2012年頃には大幅に改善した。

 しかし、これと対照的に日本では円高による圧迫が強まったのである。2012年から、今度は日本が自国通貨切下げの動きに進んだ。超金融緩和政策の下で日本円の下落が始動し、日本円の対ドルレートは1ドル=78円から1ドル=125円にまで暴騰したのである。これに連動して、日本経済は浮上することができたわけだ。

 そして、次に自国通貨切下げに進んだのがユーロ圏諸国である。ECBは2014年に量的金融緩和政策実施を決定した。連動してユーロの下落が進行。EU経済は緩やかな改善傾向を示している。
 中国では2014年後半以降に実施された金融緩和政策によって、株価が大暴騰した。上海総合指数は2,000ポイントから5,000ポイント超へと一気に2.5倍の水準に跳ね上がった。この上昇があまりに急激過ぎたために、その反動が生じた。5,000ポイントまで上昇した株価が3,500ポイントへと30%の急落を演じたのである。この株価反落によって中国経済の悪化が強まり、中国政策当局は人民元の切下げ措置を選択することになった。
 米国、日本、欧州と連鎖してきた自国通貨切下げの政策対応を、中国政策当局が最後に採用したということになるが、このことが世界経済、金融市場を動揺させる新たな震源になり始めているのである。
 そのメカニズムとは次のようなものである。

※続きは8月22日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第1225号「金融市場混乱連鎖を断ち切るための政策対応」で。


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・植草一秀の『知られざる真実』

 

 

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