2024年11月24日( 日 )

日常会話だけできる都合のよい奴隷!(5)

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言語の障壁を保ちつつ、外国の科学技術を導入

 ――今回のお話では、多くの国民にあまり知らされていなかった情報、考え方もいろいろありました。少し、整理していただけますか。

青山学院大学経営学部准教授 永井 忠孝 氏<

青山学院大学経営学部准教授 永井 忠孝 氏

 永井 私は今、大学で英語を教えています。英語だけではありませんが、語学はとても重要です。自分の母語と違う言語を学習することは、新しいものの見方、考え方を学ぶ何よりの方法だからです。結果論ではありますが、「英会話」教育が叫ばれる前の日本の英語教育は伝統的に読みを重視し正しかったと言えます。その結果、学習言語能力の高い人材が多数輩出され、明治以降、外国人に対しての“言語の障壁を保ちつつ”、外国の科学技術を導入するという絶妙の均衡で国家を繁栄させることに成功しました。

 日本の歴代のノーベル自然科学賞受賞者は世界6位、非ヨーロッパ言語圏では1位です。これは日本語だけで研究ができることに由来するものです。インドでは最近、日本とはまったく逆に、「若者の創造性が失われた」ということに気づき、大学教育は「インドの言葉」でやるべきであるという議論が起こっています。

 また真剣に言語を学ぶことによって、その言語の民族、国民に対し親近感を覚えるという側面もあります。今「平和」や「戦争」の問題が毎日のように新聞を賑やかしています。その解決に、各国を親しみを持って理解しようとする姿勢はとても重要になります。

実用目的で英語を学習することは既に必要ない

 次に、実用目的で英語を学習することはすでに必要がなくなっていることを認識していただくことが重要です。そこが、私たちが長い年月をかけて洗脳されてきた英語“幻想”から自分を解き放すスタートになると考えるからです。

 イギリスのブリティッシュ・カウンシルという世界中に英語を普及させることを目指す機関があります。その総裁であったリチャード・フランシス氏は「イギリスの真の財産は、北海油田ではなく英語である」と言っています。一方、アメリカはIIP(国際情報局)、CIA(中央情報局)が様々な文化活動を通して、アメリカの対外的なイメージをよくする広報活動を行っています。

 日本占領後、GHQは、映画やラジオ放送を通じて、日本人をアメリカ好きに仕立てあげてきました。そのアメリカ文化のなかで中心的役割を果たしてきたのが英語です。日本人の多くが、英語へのあこがれを強めることに貢献したラジオ番組『英語会話』別名『カムカム英語』という番組があります。この講師の平川唯一氏は、番組放送開始まではNHK職員で、開始後はGHQに雇われています。
同じように、テレビ放送も日本人のアメリカ志向を強めるうえで一役買っています。日本初の民放、日本テレビの創設者であり、読売新聞社社主である正力松太郎氏は、CIAと接触、CIAは正力氏にPODAM(ポダム)という暗号名をつけていました。

TPPには英語を日本の公用語にする側面がある

 ――今、TPPがアメリカの日本占領「植民地」化政策の最終形であると言う識者もいます。TPPと英語も関係があるのですか。

 永井 専門ではないことを前提に申し上げますが、TPPでは関税の問題ばかりが新聞で取り上げられますが、実はTPPには英語を日本の公用語にするという隠れた側面があると言われています。TPPは加盟国が自国の企業と外国の企業に同等の条件を保証することを求める条約です。公共事業の入札公示を英語でもする必要が出てくる可能性があります。またTPPの中のISD条項(「投資家対国家間の紛争解決条項」“Investor State Dispute Settlement”の略で、主に自由貿易協定を結んだ国同士において、多国間における企業と政府との賠償を求める紛争の方法を定めたもの)で、外国企業から英語が公用語でないせいで、企業活動が行えないと日本が訴えられるケースも考えられるのです。

奴隷には学習言語能力は身に着けて欲しくない

 ――最後に読者にメッセージを頂けますか。

 永井 色々と申しあげてきましたので最後に1点だけ申し上げます。英語を勉強する時には、何となくではなく、自分でその必要性を自覚、認識して頂くことが大切です。

 物の価値には、(1)道具的価値と(2)装飾的価値があります。道具的価値とは、その物を使うことによって利便性が高まることを言い、装飾的価値とは、その物を使うことによって、それを使う人の魅力が高まることを言います。外国語の道具的価値は、情報の伝達手段であり、装飾的価値は、その外国語を使うことによって、「かっこいい」とか「かしこそう」などという印象を与えられるというものです。

 日本人の多くは英語に装飾的価値を求めているのではないかと思われる面があります。「仕事に英語はあまり必要ないからやらなくていい」、「英語は国際語でなくなるから学ばなくてもよくなる」、「機械翻訳が発達するから英語をやる必要はなくなる」、「これから二ホン英語の実用性が上がるからニホン英語を学ぶべきである」などはすべて道具的価値に着目した考えです。本来であれば、実用英語は道具的価値だけを考えれば必要充分なはずです。

 日本人が自ら、装飾的価値を求めてくれることは、日本占領「植民地」化を考える宗主国にとっては好都合です。アメリカが日本人に身に着けて欲しいのは「会話言語能力」だけです。間違っても「学習言語能力」などは身に着けて欲しくないと考えています。奴隷がものを考えては困るからです。この点を今、日本国民は真剣に考える時期に来ているのではないかと思います。

 ――本日はありがとうございました。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
nagai_pr永井 忠孝(ながい・ただたか)
1972年、熊本市生まれ。東京大学文学部言語学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科言語学科博士課程単位取得済退学後留学。米アラスカ大学フェアバンクス校大学院人類学科にて博士号取得。米アラスカ大学フェアバンクス校外国語外国文学部 助教授を経て、青山学院大学経営学部 准教授。専門は言語学(エスキモー語)。著書に『北のことばフィールド・ノート』(共著)など。

 
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