2024年12月05日( 木 )

公共性高い「土木」の魅力を知ってほしい(後)

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九州大学 大学院工学研究院 教授 日野 伸一 氏

 ――学生時代は土木が人気だったということですが、今では3Kのイメージが強いです。研究者として、土木を中心とした建設業の魅力は何ですか。

九州大学 大学院工学研究院 教授 日野 伸一 氏<

九州大学 大学院工学研究院 教授 日野 伸一 氏

 日野 自分のやっている仕事が人々の暮らしや社会の発展に直接的に役に立つことであるというのが、私のモチベーションとなっています。土木工事は多くが公共性の高いもので、特定の個人のためのものではありません。建築と大きく異なるのはその部分かと思います。建築工事では民間からの発注も多く、依頼者のニーズに合えば、いくらでも凝ったものをつくることができます。しかし、公共構造物は予算の制約があり、経済性が要求されます。学術的立場の研究者、そして自治体の職員、民間業者とそれぞれ立場は違いますが、三者共同で1つのことを成し遂げる過程には魅力を感じます。

 ――土木建築の将来的な可能性について、お聞かせください。
 日野 時代とともに、社会ニーズはどんどん変化していくと思います。昔はとにかく安く、大量につくることが第一とされていました。それが成熟期になり、環境に配慮したモノ、工法が優先されるようになってきました。さらに今は安全、安心のための防災意識が求められています。教育機関としての九州大学土木系組織の将来構想も、防災と環境の2つの視点で展開しています。これは30年前にはなかった発想だと思います。おそらくこれから30年先には新たなテーマが生まれていると思いますが、変わらないのは人が地球上に住んで営みを続ける以上は、インフラが必ず必要になるということです。そのインフラは永遠のものではありませんから、メンテナンスが必要で、その対応が主軸になります。
 ―建設業の将来を見据えて、企業経営者に伝えたいことはありますか。
 日野 一時、景気が悪化して、公共事業も削減され、各社リストラを含めた企業の組織再編を進めました。ところが、東日本大震災後の復興需要、また東京五輪の建設需要で土木建築業界は活気を取り戻しています。しかし、この状況はいずれ終息するでしょうから、また元の状態、もしくはそれ以上に厳しい状態になるかもしれません。そのため各企業が思い切った投資ができないのだと思います。今後は企業が淘汰されていく時代に突入していきます。技術者の立場からみて、今後生き残っていくためには、やはり技術的な差別化が必要だと思います。そのなかで、得意分野を持つこと。そのためには高い技術を持つ人材が必要で、それを証明する資格の取得も進めていくべきではないかと思います。もちろん、それには投資も時間も必要。「変化が必要だと感じているが、いざ実行となると、日々の仕事に追われてしまっている」というのが実情でしょう。
 日本全体を考えたとき、国内の土木・建築はピークを過ぎています。せっかくこれほどの高い技術力を持っているのですから、海外に打って出ることも考えてほしいのです。一企業だけの努力では限界があるので、国も支援を拡大していってほしいと思います。

 ――最後に、土木建築を学ぶ若者に向けて、メッセージを。
 日野 どうやって人生を送っていくかを考えたときに、誰しも金持ちになりたいし、安定した楽な生活を望みます。だからといって、「人生、それだけで幸せだ」と私は決して思いません。一生のうち、圧倒的に働く時間が長いのです。いかに充実した仕事に従事できるか、そして高いモチベーションを保てるかが重要だと思うのです。土木はイメージが地味で、目立たない存在かもしれませんが、人々の生活、社会の発展に必ず役に立っています。
 また工学部は、産業界といかに連携して研究を行うかが重要です。さらに土木工学分野は産学連携ではなく、「産官学」連携が基本となっています。多方面のプロと連携して、1つの目的を達成することが求められます。モノづくりに興味があり、広い視野を持ってマネジメント能力を身につけ、将来社会に貢献したいという学生には、最適な学問分野だと言えるでしょう。

(了)
【東城 洋平】

<プロフィール>
日野 伸一(ひの・しんいち)日野 伸一(ひの・しんいち)
愛媛県出身、九州大学工学部土木工学科卒業。同大学院工学研究科博士課程修了。九州大学工学部助手、助教授、山口大学工学部助教授などを経て九州大学教授。2009年より工学研究院長、工学部長を務め、12年より副学長を兼務して現在に至る。専門は土木工学で、橋梁をはじめとする土木構造物などの開発・設計・維持管理の研究・教育を行う。そのほか、土木学会、日本工学教育協会などの委員、国、福岡県、福岡市などの公営企業体の委員を務めている。

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