2024年11月24日( 日 )

中島淳一「古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵」(6)

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劇団エーテル主宰・画家 中島淳一氏

 己の創作領域のみを棲家とし、その域を超えた活動には慎重になりがちな芸術家が多いなか、福岡市在住の国際的アーティスト、中島淳一氏は異色の存在である。国際的な画家として高い評価を得るだけでなく、ひとり芝居に代表される演劇、執筆活動、教育機関での講演活動などでも幅広く活躍している。
 弊社発行の経営情報誌IBでは、芸術家でありながら経営者としての手腕を発揮する中島氏のエッセイを永年「マックス経営塾」のなかで掲載してきた。膨大な読書量と深い思索によって生み出される感性豊かな言葉の数々をここに紹介していく。


アンリ・ミショーの言葉に学ぶ~1人の私なるものはない。私は絶えず他のものになることができる~

 詩人にして画家、鬼才アンリ・ミショー(1899~1984)はベルギーに生まれ、イエズス会の修道士たちの元で最初の教育を受けた後、物を見たいという欲望と不安な気分により、水夫として世界各地へ渡航。異国の果実にかぶりつき、遥かなる国々の癒しがたいノスタルジアが彼の心に染み付いてしまう。それが彼を詩作へと駆り立てる。とめどない詩作を続けるかたわら、絵にも独自の才能を発揮。アンフォルメル絵画の先駆者として美術史にその名を刻む。
 彼の謎めいた散文詩は圧倒的実在感で読者に迫る。人間の地上に於ける根源的存在の痛みは、沙漠に置き去りにされた無垢な魂の叫びとともに浄化される。

誰でも「わが領土」を書くことができる

中島 淳一 氏<

中島 淳一 氏

 言うまでもなく、私は自分自身の健康のために自己回復のために「わが領土」を書いたのだ。人が物を書くのはそのためだ。
 音と音のある種の産物を食べている者は、それこそが自分にふさわしいと感じているものだ。数学的計算や形而上学の研究によって栄養失調症に陥る者たちにとっては生物学、あるいは心理学によって啓示された光景や生物こそがふさわしいのである。逆もまた真なり。無神論者は自分が立っている階段では神を信じることはできない。
 だが、こうしたことは健康な人々にとっては明白なことではないし、丈夫な胃袋を持つ粗野な人々にとってはすべてが結構なことなのだ。
 「わが領土」には主題もない、展開もない、構成もない。ただ、順応することのできない想像力のみがある。この全くのエゴイズムに由来するかのように見える詩的実験が社会的になるまで進むしかない。弱者、病人、あらゆる種類の被抑圧者、適応不能者に役立つのは、不断の苦悩に満ちた想像力である。誰もが、自ら自己救済のために自分自身の「わが領土」を書くことができるのだ。

詩をつくろうという単なる野心はそれだけで詩を殺す

 ポエジーは自然の贈り物、恩寵であって、労働ではない。つくろうという意図が先立ち、その意識の痕跡の見える詩ほど惨めなものはない。それは才能の枯渇というより、ポエジーの欠如を意味する。霊感は求めるものではなく、与えられるものである。自らの魂の内なる霊感なしに詩の創作はできない。
 自らの心の深淵に絶えず流動し、激しく燃え盛る強烈な実体があれば、それが霊感の源泉になるだろう。その実体が既成の物・凍える存在を故意に振動させるために噴出するのだ。

私は絶えず他のものになることができる

 私なるものはあらゆるものからつくられる。人はただ1人の自分のためにつくられてはいない。1人の私なるものはない。私とは平衡状態にある1つの位置でしかない。私は絶えず他のものになることができる。そして、いつもそうなろうと身構えている無数の位置の中の1つである。


<お問い合せ>
劇団エーテル
TEL:092-883-8249
FAX:092⁻882⁻3943
URL:http://junichi-n.jp/

<プロフィール>
nakasima中島 淳一(なかしま・じゅんいち)
 1952年、佐賀県唐津市出身。75~76年、米国ベイラー大学留学中に、英詩を書き、絵を描き始める。ホアン・ミロ国際コンクール、ル・サロン展などに入選。日仏現代美術展クリティック賞(82年)。ビブリオティック・デ・ザール賞(83年)。スペイン美術賞展優秀賞(83年)。パリ・マレ芸術文化褒賞(97年)。カンヌ国際栄誉グランプリ銀賞(2010年)。国際芸術大賞(イタリア・ベネチア)展国際金賞(10、11年)、国際特別賞(12年)など受賞多数。
 詩集「愁夢」、「ガラスの海」、英詩集「ALPHA and OMEGA」、小説「木曜日の静かな接吻」「卑弥呼」、エッセイ集「夢は本当の自分に出会う日の未来の記憶である」がある。
 86年より脚本・演出・主演の一人演劇を上演。企業をはじめ中・高校、大学での各種講演でも活躍している。福岡市在住。

 
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