「戦わずして勝つ」の外交戦略の中国に落とし穴はないのか(4)
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副島国家戦略研究所 中田 安彦
中国は、イラク戦争、アフガン戦争で泥沼に米国が陥っていたこの15年間で一気に軍事的にも、経済的にも国際社会に認められる超大国になった。これは中国が孫子の「戦わずして勝つ」というテーゼと、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」のテーゼの元で米国動向を研究し、自らはひたすら経済的に成長することに尽力してきたからだろう。つまり、現在までは中国は勝ってきた。米国よりも目立たないという姿勢を崩さなかったからだ。
ところが、最近では南シナ海問題に見られるように、徐々に中国の大国化が周辺国との間で領土問題というかたちで波紋を呼んでいる。ベトナムとは昔も戦争した間柄だから対して心配する必要はないだろうが、フィリピンの背後にはアメリカがおり、ここで中国が「差し手」を誤ると、アジア太平洋地域に激震が起きるかもしれない。
気になるのは、イスラム国の勢力が新疆ウイグル自治区のイスラム原理主義派に紛れ込んで中央アジアでテロを繰り広げる可能性だ。そうなると、中国、ロシアなどの上海協力機構(SCO)諸国は「テロとの戦い」にアメリカに変わって引きずり込まれるかもしれない。中国が進めるパイプライン構想は、アフガニスタンを通ってパキスタンのグワダル港までのインフラルートを構成するのだが、アフガンではタリバンの跡目争いが起きて、オマル師の後継者に従わない勢力はイスラム国に鞍替えするとも言われており、アメリカでテロ対策の訓練を受けたタジキスタンの大佐がイスラム国に加入したという物騒なニュースも、作家の佐藤優氏が書いていた(プレイボーイ2015年8月31日号)。
もともとイスラム国というのは、アメリカのジョン・マケイン上院議員らがリードをとって育てた武装組織が母体ではないかという説もあり、だとすると、米国でテロ対策の訓練を受けたタジクの大佐がイスラム国入りしたというのは、中国を牽制するかく乱工作ではないかという気もする。
アメリカとしては南シナ海で直接衝突するよりも、中央アジアでイスラム原理主義対策を中国が取らねばならないように追い込んで軍事的リソースを消耗させ、その結果、南シナ海から中国の目をそらすという戦略をとりたいのではないか。イスラム原理主義は新シルクロードが完成するにつれて自由に移動できるようにもなる。アフガニスタンはロシア、アメリカと「帝国の墓場」となった感があるが、こんどは中国が泥沼にはめられるということも中期的にはあるかもしれない。周辺蛮族に滅亡させられないようにするのが、古代からの中国の指導者の課題だ。日本は、もともと島国、つまり海洋国家だから、あまり大陸国家に深入りするべきではないかもしれない。それよりも日本は、東南アジアや環太平洋国家との交易を主体に生き筋を考えていくのが良い。高度な産業化を行う、ドイツ流の「インダストリー4.0」のような産業政策を打ち出し、日本の製造業を強化し、高度な部品産業を維持することでしばらくは食っていけるだろう。また、日本人が総裁を務めるアジア開発銀行を使った融資を駆使することで、インフラ輸出を行う。中国のAIIBが登場することによってアジア開銀を日本がいかに有効活用してこなかったのか、ということが注目された。環太平洋貿易協定にしても、日本がイニシアチブをとって既成事実化していれば、アメリカに母屋を取られることもなかっただろう。
繰り返しになるが、日本は核を持っていないので「大国」ではない。また、大国というのはアメリカを見ていればわかるが、面倒な責任を背負いこまされるということもある。日本はそこそこのミドルパワーでよい。下手に地政学的なプレイヤーになるよりは、大国が地政学的にどのように動くかを観察して、常に最適な身の振り方を考えるというのが良いだろう。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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