日本を徘徊する「新自由主義」という妖怪!(3)
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日本一新の会 代表 平野貞夫氏
日本金融財政研究所 所長 菊池英博氏今、日本国民の多くは「何かがおかしい?」と言いようのない不安に駆られている。私たちの周りを不気味な空気が取り囲む。経済で言えば、アベノミクスは2年半以上を経過したにも拘わらず、経済はマイナス成長で、実質所得は2年連続して下がっている。明らかに失敗である。このまま、金融緩和を続けても、一部の大企業、富裕層に富が集中するだけで、99%の国民の生活は未来永劫に豊かにはならない。このことは、内外の歴史が証明している。一方、政治で言えば、「安全保障関連法案」は完全に違憲であり「戦争法案」である。この先、自衛隊員はもちろん、多くの国民が「戦争」や「テロ」という危険に直面する。
自分の息子・娘、孫の将来はどうなってしまうのか。先月30日には、女性、学生を含む若者など市民12万人が国会を取り囲んだ。しかし、「なぜこのような理不尽がまかり通るのか、そして阻止できないのか」がわからない。
近刊『新自由主義の自滅』(文春新書)で今注目の日本を代表する経済アナリスト、菊池英博氏と元参議院議員で小沢一郎氏の懐刀、平野貞夫氏にその“理不尽”の正体を探ってもらった。
市場主義、小さい政府、金融万能主義という3本の柱
――前回は「新自由主義」の概念について教えていただきました。引き続いて、中味について簡単にご説明頂けますか。
菊池 新自由主義は「市場万能主義」、「小さい政府」、「健全財政(緊縮財政)」、「トリクルダウン」、「フラット税制」、「累進課税の否定」、「福祉国家の否定」、「金融万能主義(マネタリズム)」、「財政政策の否定(公共投資による景気振興策と富の再配分を否定)、「規制緩和」などの様々なキーワードで表現されています。ここでは代表するキーワードを3つ挙げ、その中味をご説明します。
1つ目は、「市場万能主義」です。これがフリードマンの基本理念で、「自由な市場は、価格機能によって、資源の再配分ができるようになるので、富をもっとも効果的に配分できる」、「その目的を貫徹するために経済活動を可能な限り自由にすべきである」という考えです。「自由主義経済を尊重しつつも、不況で失業が増えてきたら、政府が需要を創りだし、民間の需要を呼び起こすことで経済社会が安定して成長していく」というのがケインズ経済学であり、戦後の資本主義が成長してきた政策でした。ところがフリードマンは「経済は供給サイドで決まるので、需要を創りだそうとする政策は必要ない。規制緩和と減税をすれば供給サイドが強くなる(供給サイドの経済学)」という主張をします。
2つ目は、「小さい政府」です。市場万能主義を実現するためには、政府機能を縮小して「小さい政府」にし、富裕層に減税し、社会保障制度を否定します。そうなれば富裕層に富が集中し、経済が成長し、国家が栄えるというのです。
この理由付けのために作られたのが「トリクルダウン」という理論です。トリクルダウンとは「滴り落ちる」と言う意味で、「富裕層に富を集中すれば、富裕層は投資するから、中間層以下の人々は“おこぼれ”をもらうことができる」という理論です。フリードマンは、この考えをベースとして、富裕層に有利になるために、「フラット税制」という考え方を提唱しています。これは「所得に関係なく、税率は一律(例えば10%など)であることが望ましい」というものです。「フラット税制」を実現していけば、富裕層と大企業の税負担が減り、低所得者と中小企業の税負担は増えるので、貧富の格差と所得格差が拡大していくことは明らかです。この理論は「実証性に乏しい政治的スローガンに過ぎない」(ジョセフ・スティグリッツ、コロンビア大学教授、ノーベル経済学賞受賞)と言われております。
3つ目は、「金融万能主義(マネタリズム)」です。新自由主義者は小さい政府を主張する以上、財政政策で景気を回復させる「有効需要喚起政策」を否定し、景気対策は金融政策によるべきであると考えます。
その根拠にフリードマンは「大恐慌の原因は中央銀行の資金供給が不充分だったからだ」(中央銀行犯人説)と主張します。これは大恐慌を回復させたのは、「財政支出で有効需要を喚起し、その財政支出によって仕事を作り、そのマネーを出したからである」という事実を歪曲して財政支出を無視し、大恐慌を回復させたのは、「金融を大幅に緩和したからだ」(金融緩和回復説)という点だけを強調しています。明らかに事実を歪曲して作り上げた理論がマネタリズムという政策です。
フリードマンと経済利害が一致したのがネオコンである
――よく理解できました。ところで、なぜこのフリードマンのイデオロギーがアメリカに根付くことになるのですか。
菊池 このフリードマンのイデオロギーと直接的な経済利害が一致したのは、「俺たちに富の分配が少ないではないか」と従来の累進課税制度に不満を持っていた新保守主義者(略称:ネオコン)である富裕層です。当時レーガンはその支援を受けて新自由主義型経済政策「レーガノミクス」を実行したのです。
当時のリーダーは貧しい人の気持ちをよく知っていた
平野 菊池先生のお話はよくわかります。日本が高度経済成長を成功させた時代のリーダー達は、2世、3世などほとんどなく、生家も貧しい政治家が多かったものです。貧しい人の気持ちをよく知っていました。先ほどのユングの集団無意識の今度はよい例ですが、そのような痛みを共有していたのです。私も経験がありますが、このリーダー達は料亭で豪華な食事をしている時でも、何かコンプレックスみたいなものを持っていました。だから、日本は累進課税を行うことができ、日本全体として大きく発展することができました。
今は、安倍総理、麻生副総理はその典型ですが、2世、3世が大半です。しかも、生家が貧しい人の多くは、まるでフリードマンのように、そのことに恨みを持ち、国民のことは全く考えずに、「自分だけは豊かになってやろう」と考えてしまうようになりました。
民衆を震え上がらせて抵抗力を奪うために綿密に計画
菊池 もう1つお伝えしておきたいのはこの“妖怪”は「ショック・ドクトリン」と言う手口を得意としていることです。フリードマンは「真の変革は、危機状況によってのみ可能となる」と言っています。これは現代の最も危険な思想で、民衆を震え上がらせて抵抗力を奪うために綿密に計画されることもあります。アメリカでよく使われる手法で、日本では小泉政権の「構造改革」の頃から、大マスコミ(全国紙、NHK、民放)が大々的に使うようになりました。最近では、2014年12月の衆議院選挙の時に、公示の翌々日の5大新聞「朝日、読売、毎日、日経、産経」が一斉に「自公300を超える勢い」と一面に出しました。これこそ、まさに「ショック・ドクトリン」です。他人を騙すために、先ずショックを与えて、混乱させ、正常な判断ができないような状態にしてしまうわけです。これで、投票率は戦後最低の52.66%になり、前回比で6.66ポイントの減少となりました。安倍政権というのは、「ショック・ドクトリン」による勝利で、「新自由主義政策」を実行させる政権です。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
平野 貞夫(ひらの・さだお)
1935年、高知県生まれ、日本一新の会代表。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻修士。衆議院事務局に入局。園田直衆院副議長秘書、前尾繁三郎衆議院議長秘書、委員部長等を歴任。92年衆議院事務局を退職して参議院議員に当選。以降、自民党、新生党、新進党、自由党、民主党と一貫して小沢一郎氏と行動をともにし、小沢氏の「知恵袋」、「懐刀」と呼ばれている。著書として、『平成政治20年史』、『小沢一郎完全無罪「特高検察」の犯した7つの大罪』、『戦後政治の叡智』、『国会崩壊』など多数。
<プロフィール>
菊池 英博(きくち・ひでひろ)
1936年、東京都出身、日本金融財政研究所所長。東京大学教養学部教養学科(国際関係論、国際金融論専攻)卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)で国際投融資の企画と推進、銀行経営に従事。ミラノ支店長、豪州東京銀行取締役頭取などを歴任。95年文京女子大学(現文京学院大学)経営学部・同大学院教授。「エコノミストは役に立つのか」(『文藝春秋』2009年7月号)で「内外25名中ナンバー1エコノミスト」に選ばれる。著書として、『増税が日本を破壊する』、『そして日本の富は略奪される』『新自由主義の自滅』など多数。関連記事
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