日本を徘徊する「新自由主義」という妖怪!(4)
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日本一新の会 代表 平野貞夫氏
日本金融財政研究所 所長 菊池英博氏今、日本国民の多くは「何かがおかしい?」と言いようのない不安に駆られている。私たちの周りを不気味な空気が取り囲む。経済で言えば、アベノミクスは2年半以上を経過したにも拘わらず、経済はマイナス成長で、実質所得は2年連続して下がっている。明らかに失敗である。このまま、金融緩和を続けても、一部の大企業、富裕層に富が集中するだけで、99%の国民の生活は未来永劫に豊かにはならない。このことは、内外の歴史が証明している。一方、政治で言えば、「安全保障関連法案」は完全に違憲であり「戦争法案」である。この先、自衛隊員はもちろん、多くの国民が「戦争」や「テロ」という危険に直面する。
自分の息子・娘、孫の将来はどうなってしまうのか。先月30日には、女性、学生を含む若者など市民12万人が国会を取り囲んだ。しかし、「なぜこのような理不尽がまかり通るのか、そして阻止できないのか」がわからない。
近刊『新自由主義の自滅』(文春新書)で今注目の日本を代表する経済アナリスト、菊池英博氏と元参議院議員で小沢一郎氏の懐刀、平野貞夫氏にその“理不尽”の正体を探ってもらった。
冷戦中に東アジアに蓄積された富を奪おうとした
――今回から、「新自由主義」という言葉の概念から離れて、話を現在の日本、アメリカに戻していきたいと思います。まず、「ワシントン・コンセンサス」の話から入りたいと思います。少し、解説いただけますか。
菊池 1989年11月のベルリンの壁の崩壊で冷戦が終わり、1992年11月に大統領選に勝利したクリントンは、冷戦終了後の最初の米国大統領として、新たな対外戦略を構築することになります。クリントンは国内では、積極財政で内需拡大政策を採って財政再建に成功しますが、対外的には、「新自由主義」を基本とする『ワシントン・コンセンサス』と呼ばれる新たな外交政策を展開します。
アメリカはIMF(国際通貨基金)と世界銀行を巻き込み、この基本方針に則り世界制覇を目指していくことになります。簡単に言いますと、「冷戦中に東アジアに蓄積された富を奪おう」としたわけです。
1997年から1998年にかけて東アジアの通貨危機を演出し、タイ、韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピンに自由化と規制緩和を迫り、金融市場の自由化に成功しました。
米国を中心とした投機筋はこれらの国々の通貨を売り(ドルを買い)、これらの国が外貨不足になってIMFに借り入れを依頼してくると、「財政赤字の是正、補助金削減などの緊縮財政、税制改革(累進課税の緩和)、金融改革、競争力のある為替レート、貿易自由化、資本取引の自由化(外資導入の推進)、国営企業の民営化、規制緩和、外資の保護」という条件を飲ませ、「新自由主義」を浸透させました。TPPは、「米国の対日戦略の要」と言われています
韓国の場合はワシントン・コンセンサスの理念に基づいて、「新自由主義型」資本主義をつくろうとする壮大な実験とも言われました。その彼らには「次は日本だ」という合言葉があり、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)こそ、米国の対日戦略の要」と言われています。
「安全保障関連法案」は“武器を持った”経済戦争
平野 これらは、“武器を持たない”富の収奪の経済戦争であり、「戦争法案」と言われる「安全保障関連法案」は、アベノミクスが失敗した今、安倍政権が海外に、米国と一緒になって仕掛ける、“武器を持った”経済戦争の側面も持っています。そして、今の経済界は、昔と違い「金さえ儲ければいい」と政界以上にこの経済戦争に熱心です。
ところで、この『ワシントン・コンセンサス』に基づいて、1994年頃から日本にアメリカから『対日年次改革要望書』が突きつけられてくることになりますね。
日本政府も大マスコミも国民に15年間も隠し続けた
菊池 2009年2月5日の衆議院予算委員会における下地幹郎議員(国民新党)との質疑応答のなかで、麻生太郎総理は『対日年次改革要望書』の存在を初めて認めたのです。しかし、おっしゃる通りこの『対日年次改革要望書』はクリントン政権の1994年から始まっています。なんと日本政府はその存在を15年間も国民に隠し続けていたのです。
しかし、隠していたのは日本政府だけで、アメリカはこの外交文書を1994年から大使館のホームページに載せ(最初は英文でその後は日本文でも)、しかも毎年最新版を在日記者クラブで配布し、内容の説明(ブリーフィング)まで行っていました。それにも拘わらず、大マスコミ(NHK、大新聞、民放)も一切報道せず、日本国民には公開されていなかったのです。多くの自民党員が初めて知って、会場がざわついた
この『対日年次改革要望書』は英語では“Annual Reform Recommendations”といい、本来はアメリカ政府の「毎年の日本政府に対する勧告書」と訳すのが正解な日本語です。さらに、実体は、「勧告書」というよりも「強い要求・命令」になっているのです。
これほど重要な公文書が、実に15年間も日本国民に知らされることなく、アメリカの要望に従って、日本政府が日本改造計画を進めてきていたのです。その文書の存在を最初に明らかにしたのは、2004年の関岡英之氏の著書『拒否できない日本』(文春新書)です。その年に自民党で開催された、関岡英之氏の勉強会に私も出席しています。この文書の存在を、多くの自民党員が知らず、会場がざわついたことを覚えています。
1994年からの『対日年次改革要望書』によって、(1)建築基準法の改定(2)商法の改定(3)金融の自由化(4)郵政公社の民営化(5)医療支出の削減と混合診療の認可を要求(6)時価会計の導入(7)司法制度改革(8)大店法の改定(9)労働基準法の改定など、すでに多くのことが実現している、させられています。
日本国家の独立性を失わせる極端な内政干渉と言える
これらのアメリカの要求は「1%」の人間の利益を目指した要求であり、いずれも「99%」の日本国民から「1%」の富裕層と大企業に富を集中させる手法(手口)を教えるものです。まさに悪魔の侵略なのです。「郵政公社の民営化」に代表される各項目は、全て日本の国家(司法・行政・立法)にかかわる問題であり、日本のための「改革」ではなく、アメリカの利益のための「カイカク」に過ぎません。まさに日本国家の独立性を失わせる極端な内政干渉と言わざるを得ないと思います。
日本国内に、私利私欲でアメリカへ協力するものがいる
しかし、もっと問題なのは、日本の官僚、与野党の政治家、大マスコミにいるCIA協力者が、先ず「カイカク」案をアメリカに伝え、アメリカがそれを日本政府に要求する仕組みになっていることです。アメリカからの要求は極めて細かく、日本の内情をよく知っていなければ、分からない内容が多い点からも、日本国内にアメリカへの協力者が多くいることが推察できます。
「日米新ガイドライン」は日本からアメリカにお願いした
平野 その最大のものが今回の2015年4月の「日米防衛協力のための指針改定(新ガイドライン)」です。この改定は安倍政権の方からアメリカにお願いしたものです。アメリカからの押し付けではありません。ですから、「(日米会談の前に)米国が中国に伝えていた」という事実を中国外交部が公表しています。米中は共存共栄路線をとっており、安倍政権の対米外交は日本を孤立へ追い込むことになります。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
平野 貞夫(ひらの・さだお)
1935年、高知県生まれ、日本一新の会代表。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻修士。衆議院事務局に入局。園田直衆院副議長秘書、前尾繁三郎衆議院議長秘書、委員部長等を歴任。92年衆議院事務局を退職して参議院議員に当選。以降、自民党、新生党、新進党、自由党、民主党と一貫して小沢一郎氏と行動をともにし、小沢氏の「知恵袋」、「懐刀」と呼ばれている。著書として、『平成政治20年史』、『小沢一郎完全無罪「特高検察」の犯した7つの大罪』、『戦後政治の叡智』、『国会崩壊』など多数。
<プロフィール>
菊池 英博(きくち・ひでひろ)
1936年、東京都出身、日本金融財政研究所所長。東京大学教養学部教養学科(国際関係論、国際金融論専攻)卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)で国際投融資の企画と推進、銀行経営に従事。ミラノ支店長、豪州東京銀行取締役頭取などを歴任。95年文京女子大学(現文京学院大学)経営学部・同大学院教授。「エコノミストは役に立つのか」(『文藝春秋』2009年7月号)で「内外25名中ナンバー1エコノミスト」に選ばれる。著書として、『増税が日本を破壊する』、『そして日本の富は略奪される』『新自由主義の自滅』など多数。関連記事
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