2024年11月24日( 日 )

中島淳一「古典に学ぶ・乱世を生き抜く智恵」(8)

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劇団エーテル主宰・画家 中島淳一氏

 己の創作領域のみを棲家とし、その域を超えた活動には慎重になりがちな芸術家が多いなか、福岡市在住の国際的アーティスト、中島淳一氏は異色の存在である。国際的な画家として高い評価を得るだけでなく、ひとり芝居に代表される演劇、執筆活動、教育機関での講演活動などでも幅広く活躍している。
 弊社発行の経営情報誌IBでは、芸術家でありながら経営者としての手腕を発揮する中島氏のエッセイを永年「マックス経営塾」のなかで掲載してきた。膨大な読書量と深い思索によって生み出される感性豊かな言葉の数々をここに紹介していく。


空海の言葉に学ぶ~何よりもまず自分自身を見つめ直せ~

 空海は遣唐使船で唐に渡り、長安の青竜寺で、恵果阿闍梨から密教を学ぶも、独自の解釈で仏教を進化させ、真言密教を確立した不世出の天才である。
 空海が高野山を開いて1200年。地球規模で迷走する政治と過当競争に晒され、混迷する経済の渦のなかで、時代に流されることなく、いかにたくましく生き抜いていけばいいのか。空海の言葉は時空を超えてその秘訣を説く。

古の人は学んで利を謀らずと、今の人は書を読んで、ただ名と財とにす

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中島 淳一 氏

 昔の人は出世したり、利益を得ようと思って学問に励んだわけではない。学問とは自分の存在理由を知らんと欲し、真理探求のための修行にほかならなかった。
 広大な宇宙に自分という人間は1人しかいない。このかけがえのない命を生かすことなく不完全燃焼のまま人生を終えるとすれば、いったい何のために生まれてきたというのか。
 空海は曼陀羅を説く。曼陀羅とは本質を意味するサンスクリット語である。悟り、仏である。すべての人間は元来仏だというのだ。ではなぜ仏がわざわざこの地上に人間として生まれてくるのか。この世に途方もない大胆な遊びをするためにきているのだと空海は言う。内なる無限の能力を活かし、人生を満喫するためには、己が仏であることを自覚し、仏として生きよ。すなわち、ただちに他者への批判を止め、すべての人に慈愛の心で接し、一切の迷いを捨て去り、氣を込めてやってみよ。全身全霊で取り組んでみよ。必ず周囲を引きつける強烈な磁場が生じ、人々はあなたに共鳴し、喜んであなたの仕事の後押しをしてくれることになる。

因果あい感ずること、あたかも声響のごとし

 この世のあらゆる現象はさまざまな原因が関係し合い、組み合わされ、その結果として生じる。それはまさしく叫んだ声がこだまとなって戻ってくるのと同じだ。自分の言動はそのまま自分自身にかえってくるのである。だとすれば雑念を捨て、一意専心、世のため人のために尽くすことが最善の道である。

三世の観を作すといえども、また常に自性を見るにはおよばず

 過去・現在・未来の一切の因果を洞察するための瞑想も大切な修行だが、自分自身を見つめ直すことが肝心なのである。実相としての自分自身は仏であること。同様に他の人々も仏であるということ。その真実に目覚めれば諸法実相の世界が目の前に広がってくるのである。すなわち、この世のすべてのものはそのままで真実の姿を現しているということ。あるがままにその個性の光を放っていることが全身全霊でわかるようになる。
 この世は曼陀羅の宇宙にほかならない。無数の仏の集合体なのだと空海は言っているのだ。この世に対するあらゆる否定的、批判的な感情から完全に解き放たれた時、人は誰しも赤子のように純真無垢になれる。無心になることを忘れるほど無心になった時こそ、自分に内在する能力をいかんなく発揮できるのだ。


<お問い合せ>
劇団エーテル
TEL:092-883-8249
FAX:092⁻882⁻3943
URL:http://junichi-n.jp/

<プロフィール>
nakasima中島 淳一(なかしま・じゅんいち)
 1952年、佐賀県唐津市出身。75~76年、米国ベイラー大学留学中に、英詩を書き、絵を描き始める。ホアン・ミロ国際コンクール、ル・サロン展などに入選。日仏現代美術展クリティック賞(82年)。ビブリオティック・デ・ザール賞(83年)。スペイン美術賞展優秀賞(83年)。パリ・マレ芸術文化褒賞(97年)。カンヌ国際栄誉グランプリ銀賞(2010年)。国際芸術大賞(イタリア・ベネチア)展国際金賞(10、11年)、国際特別賞(12年)など受賞多数。
 詩集「愁夢」、「ガラスの海」、英詩集「ALPHA and OMEGA」、小説「木曜日の静かな接吻」「卑弥呼」、エッセイ集「夢は本当の自分に出会う日の未来の記憶である」がある。
 86年より脚本・演出・主演の一人演劇を上演。企業をはじめ中・高校、大学での各種講演でも活躍している。福岡市在住。

 
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